【4】ハル、シズカと暮らす

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【4】ハル、シズカと暮らす

神様との1日限りの同居、1日目。 春を司る、温厚で優しい、おっとり系のハルだ。 朝、目を覚ますと、目の前にハルの顔があった。 「おはよう、シズカちゃん。今日はよろしくね」 寝起きの顔に向かって、にこやかに言われても困ってしまう。 どうしてこう、この神様たちは朝、突然ベッドの前に現れるのだろうか。 神というか、霊のようだ……。 「おはようございます、ハル様……」 「僕の事はハルって呼んでね!」 「あ……うん、ハル……くん」 そう言いながら体を起こすも、なんだかだるい。 いや、それは逆かもしれない。 部屋全体が春の陽気で暖かく、体も意識も覚醒しないのだ。 「こらー!シズカちゃん!おーきーてー!」 そんなシズカを起こそうと、ハルが布団の上から揺らしてくる。 よく見ると、ハルはピンクのエプロンをしている。 これは……主婦?お母さんのノリ!? ようやく起きてテーブルにつくと、なんと朝食が作ってある。 たけのこご飯に、いちご。どういう組み合わせなのだろうか。 あぁ、春の食材だ。 「たくさん食べてね!」 そう言って、にこやかにお椀を渡してくる、イケメン主婦。 「美味しい!ハルくんって料理が得意なんだね!」 「ふふ、喜んでもらえて良かった!」 「……くしゅん!!」 「シズカちゃん、大丈夫?」 「え?うん……くしゅん!!」 なぜか突然、くしゃみが止まらなくなった。 シズカは高校に登校するので、朝に一緒にいられる時間は短い。 玄関の前で見送りをするハル。 「忘れ物ない?夕飯作って待ってるからね!」 今度は、出勤する夫を見送る新妻のノリだ。 ハルは笑顔で、シズカの正面から顔を近付けた。 「シズカちゃん、行ってらっしゃい」 「え……ひゃっ!?」 なんと、ハルがシズカの頬にキスをしたのだ。 行ってらっしゃい、のキスだろう。 やはり新婚夫婦のノリなのが、どうも気になる。 春の新生活、という事なのか。 ピンクの髪とエプロン。ハルは、女子力の高いイケメンだと思った。 しかし、その日は学校に行っても、どうも調子が変だ。 ずっと眠くて、何事にも集中できないのだ。 気を抜くと、授業中でも居眠りしてしまう。 しかも朝からずっと、くしゃみが止まらないのだ。 「くしゅん!!うぅ、おかしいなぁ……」 熱っぽくないし、風邪ではないと思う…… ハル……春……はっ!? そこで、ようやく気付いた。 「花粉症!?」 帰宅後、ハルは夕飯も作ってくれていたが、その後の記憶はない。 眠気に耐え切れず、すぐに寝てしまったからだ。 ……春眠、暁を覚えず。 春の陽気は、花粉症と眠気を引き起こす……事もあると学んだ。
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