【6】アキ、シズカと暮らす

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【6】アキ、シズカと暮らす

神様との1日限りの同居、3日目。 秋を司る、知的でクールな紳士、アキだ。 シズカが学校から帰宅してマンションの部屋に入ると、何だか違う空気を感じた。 いや、空気ではない。匂いだ。 これは……魚を焼いてる香り。しかも部屋に充満するほど。 「お帰りなさいませ、シズカ様。キッチンお借りしています」 菜箸を片手にキッチンに立つアキは、笑顔でシズカの方を振り向いた。 神様に『様付け』されてしまった……。 「え、と……ただいま、です。アキ様、魚焼いてるんですか?」 「はい。夕飯くらい振る舞うのが礼儀ですので」 神様に礼儀を払われてしまった……。 しかし神様たちは、手料理を振る舞うというルールでもあるのだろうか? 胃袋を掴む狙いなのか、単に一宿一飯の恩義なのか。 アキは炊飯器を開けて、炊き上がった栗ご飯の湯気に眼鏡を曇らせながら、口元だけで笑った。 ちょっと怖い……。 アキが作ってくれた夕飯のメニューは、サンマの塩焼き、栗ご飯、きのこの味噌汁。 やっぱり、秋の味覚だ。 「このサンマ、美味しいです!栗ご飯も」 「恐れ入ります」 神様に恐れ入られてしまった……。 テーブルの向かい側に座るアキは、すでに2匹目のサンマを食べ始めている。 かと思うと、栗ご飯も2杯目を茶碗によそっている。 「アキ様、たくさん食べるんですね」 「私は日常的に体を動かしますので。このくらい普通ですよ」 眼鏡をかけて、いつも片手に本を抱えてる知的なアキは、インドア派に見える。 これは、まさかのギャップ萌えだ。 ……かと思っていると。 4匹目、5匹目……と、アキは次々とサンマを平らげていく。ご飯も何杯目だか分からない。 というか、この狭い室内で、何匹サンマを焼いていたのか!? 「アキ様、そんなに食べて大丈夫なんですか!?」 「お気遣いなく。これが普通です」 いや、気遣いではなく、心配になってくる。 アキはインドア派に見えて爆食という、これまたギャップ萌え……? そこでシズカは気付いた。 『食欲の秋』という言葉を。 「すごい……アキ様のお腹、どうなってるんですか」 「大した事ないですよ。見ますか?」 そう言って立ち上がるなり、アキはガバッと上着を胸元まで捲りあげた。 突然の事に、シズカは顔を真っ赤にして両手で視界を覆い隠す。 「きゃあっ!!アキ様、な、なにをぉおお!?」 「え?ですから、お腹です」 恐る恐る目を覆った手の指を開くと、そこには見事に割れた、アキの腹筋。 普段、鍛えているのは明白だ。 インドア派に見えて細マッチョという、どこまでもギャップ萌えなお方だ。 「アキ様、すごい……」 「ふふ、惚れましたか?」 見とれはしたが、惚れてはいない。 そこでシズカは、再び気付いた。 『スポーツの秋』という言葉を。 読書の秋、芸術の秋。アキは多趣味で多才なのだと分かった。 「くしゅん!!」 「シズカ様、大丈夫ですか?」 「あ、は…は……くしゅん!!」 そして何故かまた、くしゃみが止まらなくなった。 春は花粉症だとしても、秋は……何故!? シズカは、その真実を後に知る事になる。 『秋に花粉が飛ぶ植物もある』 ……という事を。
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