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【7】フユ、シズカと暮らす
神様との1日限りの同居、4日目。
冬を司る、気弱で大人しい小動物のような癒し系、フユだ。
朝、異様な肌寒さに、シズカは目を覚ました。
神様との同居も4日目になれば、だいたい予測できる。
部屋が、ヒンヤリとした空気に包まれている。
厚めのパジャマを着て正解だった。
目を開けると、ベッドの前に座り込んで、こちらを見つめている少年の姿。
「あ、おはよう、シズカさん……」
「おはよう、フユくん。何してるの?」
この神様に対しては、ごく自然にタメ口になってしまった。
それにしても神様というものは、こうも揃って寝起きに目の前にいるものなのだろうか。
「う、うん。ナツくんは、絶対に添い寝しただろうから……」
うん。その通り。見事に当たっている。
「ボクもしようかなって、迷っちゃって」
(いやそれ、凍死しそう……)
気弱なフユは、シズカに添い寝が出来ずに、朝まで座り込んでいたのだ。
健気、とでも言うのだろうか?
彼が神様でなかったら完全に危険人物だ。
着替えてリビングに行くと、フユが意気込んで言う。
「ボクが朝食を作るね」
「え?フユくんも料理が得意なの?」
「ううん。ハルくんとアキくんは手料理を振る舞ってそうだから、ボクも頑張るね」
またも、その通り。見事な的中率。
しかし、この冬神様は、他の神様に引け目を感じているのだろうか。
健気で応援したくなるが、それも変だ。
そして趣旨が、まるで料理対決みたいになってきてしまっている。
そして出来上がった、フユの手料理。
串に刺さったおでんに、いちご。どういう組み合わせなのだろうか。
いちごはハルにも出されたので、春の果物のようだが、冬の果物でもある。
というか、おでんって、どこまでが手作り…?
でも、冬の神様というからには、冷たい食品を出されると思ったので、意外だ。
「いただきます……ん?」
おでんを口に入れると、何か変な感じがした。
「シズカさん、どうしたの?口に合わなかったのかな、ごめんね……」
「ううん、違う!美味しい、美味しいよ!」
「良かったぁ……」
そんな、純粋なキラキラした瞳を向けられては、本当の事は言えない。
味は本当に美味しい。味は……
(つ、冷たい……おでん、冷たすぎる……)
なんと、おでんが、スティックアイスのように冷たいのだ。
そうきたか……と、シズカは油断のできない神様に警戒を強めた。
登校する時間になり、玄関の前でシズカの見送りをするフユ。
突然、フユがシズカに至近距離まで顔を近付けてきた。
そのまま、時が止まったように硬直する二人。
「な、なに?私の顔に何か付いてる?」
すると、フユは少し頬を赤らめて小声で答えた。
「ハルくんなら、きっとここでキスしただろうから、ボクも……」
「そこは頑張らなくていいからぁー!!」
シズカは真っ赤になって、思わずフユの体を突き放そうと手で触れた。
パチッ!!
「きゃっ!?」
フユに触れた途端に、手に小さな電流のような衝撃が走った。
(こ、これは……静電気!!)
「シズカさん、どうしたの?」
「なんでもない、行ってきます!!」
シズカは慌てて玄関のドアを開けて外に飛び出た。
あんなに強力な静電気を纏ったフユと添い寝やキスなんて……恐ろしい。
さらに、その日の夜、シズカは何か違和感を感じた。
喉がイガイガする……春でも秋でもないから、花粉症ではないだろう。
その時、部屋の壁際に設置している温湿度計を見て気付いた。
「え!?湿度0パーセント!?」
部屋が異常に低温、そして『乾燥』している事に……。
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