序章

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序章

耳が良かった。 昔から。 時計の秒針が刻む音が 空気を僅かに揺らすことを知っていた。 目が良かった。 昔から。 どんなに遠くのものでも見通せる視力を持っていた。 昼間に見える月の 空に溶けてしまいそうな淡さが好きだった。 他の誰よりも特化していて、 他の誰よりも敏感で、 聞きたくないことも聞こえたし、見たくないものも見えた。 知りたくない。 けど、 いつも必ず知ることになる。 私にはいらない能力だった。 だから常に 下を見て俯いて、誰とも目を合わせないように イヤホンで音楽を流して、周りの雑音を消し去った。 本当に必要で 欲しい力を 私は持ち合わせていなかった。
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