その5

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その5

まいかちゃんはあっさり認めた。 ふざけてやったとのこと。 私に恨みは特になく、何となく。 ゆかりちゃん、ことちゃん、その他クラスメイトも私のものを隠したりしたんだそう。 あとで、まいかちゃんとまいかちゃんのお母さんその他のクラスメイトが私の家に謝りに来た。 ショックだった。 友達だと思ってたのに。 その日の夜は何も食べられなかった。 次の日、私は学校を休んだ。 自分の部屋でカーテンを閉め切り、布団を被った。 それでもやっぱりお腹が空く。 何か食べようかと二階に行った。 お母さんがいた。 喫茶店を臨時休業したらしい。 台所から「今日は上手くできたかも〜」と嬉しそうな声が聞こえてきた。 グラタン。 私の好物で、母が一番得意とする料理。 お母さんが料理をテーブルに並べた。 美味しそうだと思った。 スプーンですくって、いざ目の前にする。 なのに食べるのが怖い。 まだ何も食べてないのに、口の中に広がるあの感覚。 お母さんの料理なんだから 大丈夫。 一口食べた。 熱い。 もちろんあの感覚はない。 けど、違う違和感を感じた。 「どう?美味しい?」 母が私に聞いてくる。 こんなこと本当は言うつもりはなかった。 母に言ってはいけない言葉。 悲しませて、 一番傷付けてしまう 呪いの言葉。 なのに私は口にした。 「…おいしくない。」 母の表情が固まった。 そして、険しくなった。 それでも私は言った。 「味がしない。」 声が震えている。 「匂いも分からない。」 涙で視界が曇った。 私は味覚と嗅覚を失っていた。
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