その3

1/1
前へ
/31ページ
次へ

その3

やっと放課後になった。 「今日はおととい買った材料でクッキーを作ってみたいと思います。」 早苗ちゃんが仕切った。 声がよく通るし、みんなをまとめるのに向いてるな。 部員を3グループに分けて作業を行った。 まず、オーブンを170℃で予熱する。 次に材料の計量。 薄力粉120gに砂糖40g、バター60gと卵を一つ。 粉物はふるいにかけて、少しレンジで温めてバターを溶かし、卵をボウルに割り入れた。 そして材料をボウルの中で混ぜていく。 生地を綿棒で均一に薄く広げて、型抜きを行う。 私はハートの型を使った。 大体30個ほどできただろうか。 鉄板にクッキングシートを敷いて、型抜きした生地を乗せた。 オーブンで20分ほど焼けば完成だ。 焼けるまでの間、洗い物など片付けした。 10分経過したくらいで早苗ちゃんが、 「いい匂いがしてきたね。」 と言った。 「そうだね。」 と相槌を打ったけれど、 私には分からなかった。 10分後、オーブンがチーンと鳴った。 私達はオーブンを開けた。 ほんのり焦げ目がついたクッキーが並んでいた。 「「美味しそう」」 みんなが声を揃えて言った。 成功したみたいだ。 莉子が手袋をはめて、オーブンからクッキーの乗った鉄板を出した。 「早速食べてみよう。」 私は言った。 なぜだろう。 物凄く食べたい。 みんなで試食した。 私はクッキーを一枚つまみ上げた。 そして、口に運ぶ。 噛んだ瞬間は硬いと思った。 けど、しっとりしている。 おいしい。 また一枚クッキーをつまみ上げた。 おいしい。 「桃花先輩?」 美優ちゃんがびっくりしたようにこちらを見ている。 どうかしたのか。 他の子も。 少し顔が強張っている。 三崎くんが静かな声で言った。 「先輩… どうして泣いてるんですか?」 「え?」 気付けば私の目からは涙がこぼれていた。 「みんなで作ったクッキーが涙が出るくらい美味すぎて。」 「嬉し泣き?ちょっとびっくりしたー」 莉子が言った。 三崎くんが私の頬に流れた涙をぬぐった。 「ほら、泣かないで。」 なぜ泣いたか、自分でも分からなかった。
/31ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加