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その6
そして、もぐもぐ食べ始めた。
私も仕方なく、弁当箱に包まれたバンダナを解いた。
「三崎くんのお弁当おいしそうだね。」
色合いとか、おかずの配置とか何もかも完璧すぎる。
「弁当毎朝早起きして自分で作ってるんですよ。」
「すごいね。めちゃくちゃ偉い。」
それに比べて私は…
「いつもお母さんに作ってもらってます…」
私は弁当箱を開けた。
今日はハンバーグ弁当だ。
スパゲッティ、ポテト、コーンサラダ。
めちゃくちゃ美味しそう。
味覚障害がなければな。
三崎くんをチラと見ると、すごく羨ましそうにこちらを見ている。
なんだよ。
仕方ないな。
「これよかったら、半分あげるよ。」
「いいんですか?」
待ってましたと言わんばかりの顔しちゃって。
なんか可愛いな。
私はハンバーグを真っ二つに分けて、大きい方を三崎くんに渡した。
「めちゃくちゃうまいです。」
「よかった。」
どうせ味が感じられないんだから、私の食事を作るとき調味料なんて使わなくていいとお母さんに言った時がある。
そのときお母さんはこう言った。
「もし、味覚と嗅覚が戻った時、一番最初に美味しいって感じる料理がお母さんが作ったものであってほしいの。だから、たとえ味を感じなかったとしてもお母さんは味付けをやめない。」
ふとそんなことを思い出した。
「先輩っていつもイヤホンつけてますね。ワイヤレスのやつ。」
三崎くんはいつの間にかお弁当を食べ終わったみたいだ。
「そうだね。」
別に常に音楽聞いてるわけじゃなく、耳栓の役割に近いんだけどね。
「俺の声聞こえてるか時々不安になります。」
「大丈夫だよ。ちゃんと聞いてるから。」
三崎くんの声だけは絶対。
「知り合ってからしばらく経つけど、先輩と目が合ったこと一度もないんですよね。」
「いや、あるけど、見てるようで見てないような気がするんですよね。」
「近くにいるのに。なんか俺透明人間みたいだなっていつも思ってました。」
三崎くんは寂しそうに見えた。
「別にそう言うつもりじゃ。」
なんか三崎くんといると、些細な会話一つ一つに胸がほんの少しだけ、ときめいてしまう。
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