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第3話 その2
信号待ちの時莉子が私に聞いた。
「結局さ、なんで呼び出されたの?」
「進路希望調査書を白紙で提出したから。」
私は淡々と答えた。
「は!?」
私達と同じく信号待ちをしていた人がこちらを一斉に見た。
「声大きい。」
「そりゃ呼び出されるわ…」
莉子は呆れたような納得したように言った。
信号が青になった。
私達は歩き始める。
「桃花はお母さんの店継ぐんでしょ?」
莉子が当たり前のように聞いてくる。
継ぎたい。
そう思っている。
三崎くんにも言ったっけ。
でも店を継いだら、お客さんが美味しそうに料理を食べる姿を見ることになる。
当然だけど。
私はそれに耐えられるだろうか?
きっと辛いだろう。
味覚と嗅覚の障害があって、私は何も感じないのに。
そんな私がお客さんが幸せになるような料理を提供できるはずがない。
「最近、どうしよう迷ってる。」
私は、曖昧に言葉を濁した。
「莉子は?」
「私は教師になりたいって思ってるよ。」
いいな。
そんなはっきりとした目標があって。
そして、その目標を実現できる力が莉子には備わっている。
「莉子なら絶対なれるよ。」
私にはその確信があった。
午後4時11分。
家に帰った。
今日は部活がないから、いつも帰ってくる時間より早い。
店はまだこの時間は営業している。
私は店の扉を開けた。
「お帰り。桃花ちゃん。」
「ただいま。」
出迎えてくれたのは長いことうちの店でパートをしている顔見知りのおばさん、田中 千恵子さんだ。
お母さんより少し年上だと思う。
「今日は早いね。」
「部活なかったから。」
「これあげるよ。ドーナツ。」
田中さんは個包装のドーナツをくれた。
「ドーナツの穴を覗くと、見えないものも見えてくるよ。」
「えーなにそれ。」
今の私はその言葉の真意が分からなかった。
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