その3

1/1
前へ
/31ページ
次へ

その3

その瞬間、口の中に張り付くような感覚が広がった。 歯磨き粉みたいな味。 まずい。 私は思わず口元を手で抑えた。 みんなの前で吐き出す訳にはいかなかった。 私はシチューを飲み込んでしまった。 その瞬間、スプーンが床に落ちて金属音が鳴り響いた。 周りを見た。 シチューを食べて、むせたり顔をしかめたりしている人はいない。 同じ鍋からよそったシチューなのに、なぜ私の分だけ味がおかしいのか。 「ねぇ、ほんとに桃花ちゃんの給食にチョーク入れたのかな?」 「吐きそうにしてるし、ほんとなんじゃない?」 誰かが笑った。 数人。 後ろから。 前からも。 右。 左。 女子がほとんど。 男子の笑い声も少し混ざってた。 みんなが私のことを見ている。 私と目が合わないように、横目で。 嘲笑う人。 同情する人。 何が起きたかわからない人。 色々だけど、共通してみんな好奇の目で私を見ている。 今、思い出しても不愉快極まりない記憶。 あの時、全員の眼球潰してやればよかったなと心底思った。 落ちたスプーンを拾ってお盆の上に乗せた。 そして、私は静かに言った。 「なんでこんなことするの?   まいかちゃん。」 まいかちゃんは少し目を見開いて、驚いたような意外そうな顔をした。 「へぇ、気付いてたんだ。」
/31ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加