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 「ユーイン様!!あれを!!」  マグナ大聖堂に運ばれた重症者の治療にあたっていたユーインは、団員が指差す方角を見るなり驚愕した。  「何だあれは……!!」  王城の上を覆う黒雲。  それが魔物の群れだと気付くのにそう時間はかからなかった。  ──リーリア!!  ユーインの背筋に嫌な汗が伝う。  馬鹿な。知性を持たぬ奴らが一箇所に集結し、攻撃を仕掛けるというのか。  しかもこの国の要である王城に。  「すまん、私は一度王城に……!」  言いかけて、すぐに言葉を飲み込む。  なぜなら目の前に、自分の姿を見つけ、涙ぐむ母娘がいたからだ。  「あぁ!白のユーイン団長だ!良かったね、母さん。これで助かるよ!」  顔中泥と血に塗れた中年の娘は、やっとの思いでここまで母親を背負ってきたのだろう。手足が震えていた。  服の上からなので傷の具合は定かではないが、母親は上半身から尋常でない出血をしている。魔物に襲われたのだ。  任せられる者はいないかと周囲を見るが、誰もが目の前の患者で手一杯だった。  そして重症患者ほど、魔法の熟練度の高い者でなければ治すのは難しい。  急な招集で人数も揃わず、混乱する現場を前にユーインは立ち尽くす。   『……それなら私の事は、ユーイン様が守ってください……』  昨夜のリーリアの言葉が脳裏をよぎる。  『ユーイン様が朝昼晩と側にいてくだされば、何よりも安全でしょう……?』  今すぐ城に戻り、リーリアをこの手で守ってやりたい。自分の側は何よりも安全な場所なのだと示してやりたい。  無責任だと避難されようと、師団長の立場から追われようと関係ない。  リーリアさえ無事でいてくれるのなら。  けれど、目の前の命から目を逸らし、君のためだと駆け付けたところで、そんな男をリーリアは愛するだろうか。  そして自分は?  ユーインの元へ救いを求め集まった民を見殺しにして、本当に後悔はないのか。  そんなの考えるまでもない。答えは否だ。  「おっ、おい!あれを見ろ!クレイグ様が出るぞ!」  巨大な火焔鳥の背に乗ったクレイグが、魔物を駆逐しながら空を舞う。  凄まじい速度で向かうのは王城の方角だ。  ──クレイグ……あいつ…!!  前線を放り出して城へ行く気か。  しかもたったひとりで、あの魔物の群れの中へ。  ただの大馬鹿か、それとも前線で何かに気付いたか……もしくはその両方か。  身勝手で態度の悪い宮廷魔道師団きっての問題児。  しかし今のユーインには、心のままに生きるクレイグの姿が羨ましくもあった。  城内は腕利きの魔術師と屈強な近衛騎士が守備を固めている。  そしてリーリアには王族専用の隠し通路も用意されているはずだ。  アルムガルド王城は、決して容易く陥落などしない。  ユーインは固く手を握り締め、大きく息を吐いた。  ──リーリア。すべて終わらせて、必ず助けに行く  「重症者は順番に私の元へ!!手が空いている者は前線にいる黒魔導師団副団長の指揮下に入り、戦闘の補佐を!!」
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