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 湯浴みを済ませ、ユーインの訪れを待っていたリーリアに届けられたのは、予想もしない知らせだった。  王都のロンド地区が魔物の襲撃にあい、既にユーインたち宮廷魔道師団が向かったと。  リーリアを気遣ってか、いつもお喋りが大好きな侍女たちも、口を閉じて動き回る。  ユーインと添い遂げられるという事に、ただただ浮かれていた。  アカデミーの講師としての彼の伴侶になるのであれば、何の憂いもなかっただろう。  しかし、彼は類稀な力を持つ宮廷魔道師団の師団長だ。この先何度だって同じ状況は訪れ、その度にリーリアは不安に苛まれるだろう。  けれど、たとえどんな事が起ころうとも、ユーインを愛したことを後悔なんてしない。    ──大丈夫。ユーイン様は絶対無事に戻ってくる  「……雨でも降るのでしょうかね……ひっ!!」  急に暗くなった空を不思議に思ったパティが窓に近付くなり声を上げた。    「どうした、パティ?」  パティの様子を心配し、窓に近付いたアーロンも、空を見るなり驚愕する。  空を覆っていたのは雲ではなく、おびただしい数の魔物。  アーロンは侍女たちと共に急いで部屋の戸締まりをし、リーリアと共に奥の部屋へ移動した。  「ご安心ください。城内には近衛騎士と魔道師たちがいます。それに殿下のことは、俺がこの命に替えてもお守りいたしますから!」  リーリアを安心させるようにアーロンが胸を叩く。  「頼もしいわ、アーロン。けれど、いざとなったら隠し通路で脱出しましょう。魔物たちもそこまでは追いかけて来ないはず」  隠し通路の入り口には仕掛けがある。  知性のない魔物がそれを突破してくるとは考えにくい。  耳を澄ませば外からは悲鳴と争い合う音が聞こえ始めた。  リーリアはさっき見た窓の外の光景を思い出し、身震いする。  ドニエの森で襲われた時も、あれ程の数はいなかった。  ユーインたちが出払っている今、本当にこの城は大丈夫なのだろうか。  その時、固く閉じた扉の向こう側から、聞き覚えのある声が響いてきた。  「殿下!ご無事ですか!?イゾルデです!」  「イゾルデ様……?」  「ユーインに頼まれて、リーリア殿下の救出に参りました!どうかここをお開けください!」  一瞬にして皆の顔に安堵の色が浮かぶ。  「さすがユーイン様だ!殿下、イゾルデ様がきてくださったなら、何も恐れることはありません!」  助かったとばかりに胸を撫で下ろす皆の横で、リーリアは激しい疑問に襲われていた。  ──ユーイン様が私の救出のためにイゾルデ様を寄越した?民たちの救出よりも先に私を?  イゾルデは黒魔導師を率いる団長だ。  本来なら今頃は、現場で黒魔導師たちの指揮を取っていなければならないはず。  それをリーリアの救出のためだけにユーインがここへ寄越すなんて、いくらなんでも有り得ない。  城にだって魔道師はいるのだ。  何よりもまず民のことを、力を持たぬ人を救う事を最優先とするのがユーインだ。  どんなにリーリアの事を愛していても、決して大事なことを見失うような人ではない。  そしてイゾルデも、例えユーインの頼みだったとしても、この状況下で快く引き受けるなんて到底信じられない。  ──何かがおかしい  頭の中でけたたましく警鐘が鳴る。    「アーロン、開けては駄目」  リーリアは、すぐさま扉を開けようとしていたアーロンを止める。  「リーリア殿下?イゾルデ団長ですよ?」  「駄目よアーロン。私の身はあなたが守るの。イゾルデ様じゃない」  リーリアの真剣な表情に、アーロンは眉根を寄せた。  「リーリア殿下、このままでは私がユーインに叱られてしまいます。さあ、どうかお早く!」      
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