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「さぁ、もう行ってください」
抱擁を解き、クレイグは通路の先へとリーリアを促す。
しかしリーリアは、ここでクレイグと二手に別れることを得策だとは思わなかった。
クレイグを説得しようと試みるが、彼は決して首を縦に振らない。
「どうして駄目なのですか」
「殿下、聞き分けのない子どものような事を言わないでください」
「子どもで結構です。クレイグ様、もしもこの先に魔物が待っていたら、誰が私を守ってくれるのですか?とっくに気付いてらっしゃると思いますけど、運動神経のかけらもない私が走って逃げるのは無理ですよ」
リーリアはさっきのようにクレイグの腕を自身の首に回し、肩を貸す。
「行きましょう。絶対に、ふたりで助からなくては」
リーリアの強情さにクレイグもようやく重い腰を上げた。
しかし次の瞬間、背後から聞こえた声にふたりの足が止まる。
「まったく……さすが最年少で首席魔道師の座に就いただけのことはある。世話になってる団長に向かって容赦のない攻撃だったよ、クレイグ」
振り返るとそこには焼け焦げたローブを身に纏うイゾルデの姿。
しかし、あれだけの爆炎に包まれたにも関わらず、彼女自身は軽傷だ。
クレイグはリーリアから腕を離し、イゾルデから隠すように前へ出た。
「いい加減になさったらどうです。王女殿下に手を出せば死罪ですよ。今ならまだ間に合う、手を引いてください」
「何を勘違いしている。私はユーインに頼まれてリーリア殿下を救出しにきたんだ。さあ殿下、どうぞこちらへ」
手を差し出されるが、リーリアは一歩も動かない。イゾルデは表情に苛立ちを滲ませた。
「誰に何を吹き込まれたのかは知りませんけが、見苦しいですよ団長」
イゾルデの眉が、ピクリと動いた。
「大方あのクラウスナー侯爵家の馬鹿息子あたりに唆されたのでしょう。ユーイン殿の代わりに随分長い時間お相手されてましたからね。何て言われました?どうせユーイン殿の事についてでしょう?」
──オスカー様がイゾルデ様を唆した……?でも、いったい何と言って?
「ユーイン殿が王女殿下に入れあげすぎて、宮廷魔道師団など見捨てるつもりだとか?万が一そうだとしたら切ないですね。なんと言っても団長はユーイン殿と共に長年宮廷魔道師団を率いてこられたのですから。ここにくるまでに、並々ならぬ苦労もあったことでしょう。それをずっと、ふたりで心を一つにしてやってきたのです。そこに特別な感情が芽生えてもおかしくはない」
「黙れクレイグ」
顔に貼り付けていた笑顔が消え、イゾルデは睨め上げるようにクレイグを見据えている。
「けれど現実は残酷なものです。団長は誰よりもユーイン殿に近かったはずなのに、いつの間にかリーリア殿下とユーイン殿は相思相愛……あっという間に結婚まで決めてしまった。しかも長年側にいた自分には相談すらしてくれなかった……それは憎くてたまらないでしょうね。彼の隣は自分の物だと思っていたのなら尚更」
「黙れと言っている!!」
イゾルデから氷の矢が放たれる。
しかしクレイグはそれを眼前で全て粉砕した。
「私たちから魔力を取り上げたら何も残らない……そんな虚しい人生の中で、愛する者を見つけられたという事がどれほど素晴らしい事か。その想い自体はわからなくありません。しかし、愛する者の愛する女性を弑したところで何になるというのです。その行いはあなたのためにも……そして誰のためにもならない」
「うるさい!うるさい!うるさい!!黙れと言っている!」
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