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 「いいえ、黙りません。挙げ句の果てにあなたは我ら誇り高き魔道師にとって、一番の禁忌を犯してしまった。魔物を蹂躙し、仲間をおびき寄せる餌に使ったのです。こんな下衆な行い……到底見過ごすことはできません」  ──魔物を蹂躙した?    リーリアは耳を疑った。  気さくで明るく、誰にでも平等で周囲からの信頼も厚いイゾルデが、まさかそんな。  「私がやったという証拠がどこにある」  「無傷で魔物を狩って、尖塔の上に放置する……あなた以外に誰がこんなことをやれるというのです」  「お前だってできるだろう。何せ私の後釜を狙っているくらいだからな」  イゾルデはにやりと笑い、仕掛けてきた。  受け止めるクレイグの額には玉のような汗が。  傷が痛むのだろう。  けれど彼は冷静だった。  「その通り。私ほどの力があれば可能です。しかし、こんな私にも矜持というものがある」  「矜持?戦場では手段を選ばないと評判の悪童が、いったいどんな矜持があると」  馬鹿にしたような嗤いが地下道に木霊する。  「正直、手段が綺麗だろうが汚かろうが、戦場ではそんな事関係ない。気にしていたら自分が殺られます。そして人間の私からすれば、魔物の命がどうなろうと、それもどうでもいい」  「それなら矜持なんて無いも同然だろう」  「いいえ、あります。私は決して大切な人を裏切らない。私を信頼し、例えいっときでも心を分け与えてくれた人を悲しませるような事は、絶対にしないと決めています。なぜなら私は人間だから」  イゾルデの顔色が変わる。  クレイグの言葉に動揺しているのだと、リーリアにもわかった。  「己の心に正直になるのはいいことです。しかし邪魔なものは全て排除し、自分にとっての快楽だけを追求するのなら、それは魔物や獣以下……もはや人ですらない」  「黙れぇえ!!」    凄まじい冷気があたり一面に巻き起こり、クレイグの皮膚を氷の粒が無数に切り裂く。  「クレイグ様!!」  クレイグはイゾルデから決して目を逸らさない。イゾルデと本気でぶつかり合うつもりなのだ。  祈ることしかできない自分がもどかしい。  しかし、そんな気持ちはすぐさま吹き飛んでしまった。  クレイグから漂う異様なまでの威圧感。  これまで見てきたどの姿の彼とも違う。  おそらくこれが、アカデミーの指導者たちから天才とまで言わしめたクレイグの本当の姿だ。   「殿下」  「は、はい!」  「万が一の事があれば、私を置いてすぐに逃げてください。あなたが逃げる時間くらいは作れるはずです」  しかしリーリアは首を振らなかった。  「嫌です。クレイグ様と一緒でなければ行きません」  リーリアの答えにクレイグは白目で天を仰いだ。  そして諦めたように大きく息を吐き、手をかざした。  そして、リーリアの視界は凄まじい光に包まれた。  
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