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 同じ頃、ロンド地区で負傷者の救護にあたっていたユーインは、黒魔導師たちが王都に出現した魔物を掃討したという知らせを受けていた。  依然としてイゾルデの行方はわからず、主戦力であるクレイグも欠いた状態ではあったが、予想よりずっと被害は少なく済んだ。  重症者の治療も目処が付き、ユーインは今後について部下に指示すると、自身の力で作り出した白い鳥に乗り、急ぎ王城へと向かった。  さっきまで空を覆っていた魔物がいつの間にか消えている。  いったい何が起こっているのか。  ユーインはひたすらにリーリアの無事を祈った。  しかしその途中、凄まじい轟音と共に、天に向かって炎の柱が上がったのだ。  ──あれは王城……そしてあの炎はまさか、クレイグか!?  己の命を燃やし尽くすような激しい炎。  ユーインの背筋に嫌な汗が伝う。  「リーリア……頼むから無事でいてくれ……!!」  *  光と共に目の前に巻き起こった凄まじい炎の柱。  それは地下道のみならず、城の天井にまで大きな穴を開けた。  リーリアが目を開けると、炎はイゾルデの放った攻撃をも巻き込み、両者の間を隔てている。  「クレイグ、これではいつまで経っても私を退けることはできないぞ」  しかしクレイグが炎を巻き起こし、穴を開けたのには別の意図があったようだ。  「正面からぶつかって突破しようかと思ったのですが、ちょうどこちらに向かってくる魔力を感じたもので。あとはその方に任せようと思います」  ──こちらに向かってくる魔力?  「クレイグ様、それって……」  クレイグはリーリアの方を肩越しに見ると、ため息混じりに教えてくれた。  「あなたの待ち人ですよ」  「私の……まさか、ユーイン様?」  しかし、ユーインの名前をほっとしたように口にするリーリアを目にしたイゾルデは激昂し、クレイグの炎を押し返さんとしてきた。  「クレイグ様!」  クレイグの顔に焦りが見える。  リーリアが両手を胸の前で握り締め、覚悟を決めたその時──  「リーリア!」  空から聞こえたのは世界で一番愛おしい人の声。  そこには、真っ白な翼を持つ鳥の背に乗ったユーインの姿があった。  イゾルデはユーインを見るやいなや青褪め、攻撃の手を止める。  リーリアは、限界がきたのか膝から崩れ落ちそうになるクレイグを寸前で支えた。  ユーインはイゾルデの側を通り過ぎ、リーリアに向かって走ってくる。  リーリアは見てしまった。  目も合わさずに通り過ぎて行くユーインの姿に、イゾルデがとても傷付いた表情をしたのを。  ユーインは側まで来ると、リーリアに代わりクレイグの身体を支えた。  「リーリア、無事で良かった……!!」    安心したせいか、胸の中に熱いものが広がると同時に、膝が震えて力が入らない。  リーリアは、クレイグを支えるユーインにそっと身体を寄せた。  「いったい何があったのか説明してください」  だが、何と説明したらいいのかリーリアにはわからなかった。  クレイグとイゾルデの会話を聞く限り、これはイゾルデがユーインへの叶わぬ想いに駆られて起こした事。  けれど、イゾルデの気持ちを軽々しく自分の口から語っていいのかどうか。  ちらちらとイゾルデを気にするリーリアに気付いたのか、ユーインは後ろを振り返る。  「イゾルデ」  名を呼ばれたイゾルデの肩がビクンと震えた。  「今まで何をしていたんだ。わかるように説明してくれ」  「あ……私は……その……」  さっきまで自分たちを殺すことも厭わない様子だったのに、しどろもどろになるイゾルデは、まるで別人のようだった。  「イゾルデ」  ユーインの声からはどんどん温度が失われていく。  「わ、私は……私は……」  イゾルデはそう繰り返すだけで、肝心な事は何も喋らない。  「こんな大それたことをしでかした割に、拍子抜けするくらい大人しいでしょう」  怪訝な顔で事態を見守っていたリーリアに、クレイグがひとり言のように呟く。  「もうどう取り繕っても無駄なのに、それでも好きな人には自分の醜い姿を見せたくない……人間なんて、矛盾だらけだ。理解しようなんて思うだけ時間の無駄です」  「クレイグ様……」   そのうちに城内から人が集まってきた。  黙ったまま向かい合う両師団長。  そして片側には大怪我を負った魔道師と、アルムガルドの王女。  異様な光景に誰もが口も手も出せず、ただ見守る中、見かねたクレイグが口を開いた。  「王都の騒ぎも、城内へ魔物を引き入れたのも、すべてはイゾルデ団長がひとりでやった事です」  その一言にユーインは瞠目した。  疑ってはいたのだろうが、それでも心のどこかでは信じていたのだろう。  ユーインは少しの間何かを悩んでいたが、やがて自らが作り出した光の縄でイゾルデを捕縛した。  捕らわれる際、イゾルデは一切の抵抗をしなかった。  その表情が、どこかほっとしているように見えたのは、多分気のせいではない。    ***  クレイグはすぐさま宮廷魔道師団の本部に運ばれた。  治療にあたったのは意外な事にユーインだった。  しかしふたりの仲に劇的な変化があった訳ではなく、要は皆出払っていてユーインしかいなかったのだ。  物凄く渋い顔をして無言の抵抗(クレイグの治療なんかしたくない)を見せたユーインだったが、リーリアのたっての願いを聞き入れた形だ。  何で持ち場を離れて勝手に王城へ行ったのか。  何でリーリアの側にお前がいたのか。  治療の間中ユーインからのネチネチとした説教が続いたが、クレイグは屁でもないと言わんばかりの顔で無視を続けた。  治療が終わるまで仏頂面で喧嘩をしていたふたりの姿は、しばらくの間、魔道師たちの話題をさらったのだった。  *  「なぜこんなことをしたのか話してくれないか」  独房の中、随分とやつれた友人を前に、ユーインはこれまでと変わらぬ口調で話しかけた。  「……すまなかった……謝って済む問題じゃないのはわかってる……ただ、どうしても自分を抑える事ができなかった……」  イゾルデは深く深く、頭を下げた。  イゾルデは、ユーインより二年遅れて宮廷魔道師団に入団した。  初めて足を踏み入れた厳かな雰囲気の建物の中、イゾルデは神様に出会ったと思った。  真っ白な髪に、深い海の底のような藍色の瞳を持つ先輩魔道師ユーイン・オルブライト。  彼は優しくて穏やかで、誰にでも平等な人だった。  慣れない場所に四苦八苦していたイゾルデは、すぐさまユーインに懐き、何だかんだと理由をつけては側にいた。  白魔道師と仲良くすることに陰口を叩くものもいたが、そんな事は気にならなかった。  ユーインもイゾルデを憎からず思ってくれている事は肌で感じていた。  だから必死で学んだ。いつかユーインが師団長として立つその時、隣には自分がいられるようにと。  「お前には女の影なんてなかったし……私が側にまとわりついても嫌な顔もしなかった。気安く口を聞くのも私だけで……」  だから勘違いしていた。  自分はユーインの特別な存在であると。  友人関係が長かったせいもあり、この関係が壊れるのが怖くてお互いに想いを口にしないだけだと。  そう思えるくらいの空気が、ユーインと自分の間には確かに存在していた。  だから、王女という高貴な存在がアカデミーに入ってきた時も、まったく気にならなかった。  「リーリア殿下はお前よりもひとまわりも年下で、しかも王女だ。ふたりがどうこうなんて有り得ないと思っていた……」  しかしリーリアがユーインに好意を寄せているのはなんとなく気付いていた。  ユーインが研究所の話を持ってきた時も、リーリアのためだとすぐに気付いた。  しかしユーインは面倒見がいいだけで、そこに恋愛感情など存在しないと思っていた。  けれど面白くはなかった。だから少しだけ意地悪をした。  リーリアに見せつけるように、自分の方がユーインを知っていると思わせぶりに振る舞って、優越感に浸っていた。  元気のないリーリアを見て胸がスッとした。  だが、その行いがふたりの仲を急速に結びつけてしまったのかもしれないと気付いた時にはもう遅かった。  ユーインがリーリアと一夜を共に過ごした日。  ふたりが結婚するという現実を急に突き付けられたイゾルデは、身体中が嫉妬の炎で焼き尽くされるかと思った。  これまで魔道師は、同じく苦楽を共にした魔道師と結ばれるのが一般的だった。  魔道師の苦しみは魔道師にしかわからない。  ユーインとて、魔道師を……自分を選ぶはずだと。  「そんな時にオスカーが言ったんだ……お前がリーリア殿下に選ばれて有頂天になっていると……」  「私が有頂天に?」  「そうだ……研究所創設の暁には宮廷魔道師団から去るつもりだと……そして貴族の真似事をしながら生きていくのだろうと……」  「馬鹿な……そんな事ある訳がないだろう」  「でもお前は殿下を選んだじゃないか!!」  イゾルデは声を荒げた。  その目には涙が浮かんでいる。  「殿下と生きるために素性まで明かして!これまでその秘密を知っているのはごく一部の人間だけだったのに……公にしたという事は、宮廷魔道師団を捨てるつもりだからだろう!?」  信じられなかった。  今の宮廷魔道師団はユーインとイゾルデが毎日のように議論を重ね、懸命に作り上げた場所。いわばふたりの想いの結晶なのに。  そしてオスカーは傷付くイゾルデに更に言い募る。  「殿下は魔道師を理解したい訳じゃなく、恋の真似事を楽しむためだけに魔道師団に出入りしているのだと……お前もいつか殿下に捨てられるだけなのに、夢中になるなんて大馬鹿だと……」  「馬鹿な……リーリアはそんな女性じゃない」  「なぜそう言い切れる?殿下はクレイグとよろしくやっていたじゃないか!火焔鳥の背に乗って相乗りを楽しんだり、ふたりで寄り添って私から逃げていただろう!?お前は騙されてるんだよユーイン!私はどうなっても構わない!けれどお前には幸せになって欲しいんだ!」  イゾルデの瞳は悲しいほどに真剣だった。  ユーインは、これ以上何を言っても自分の言葉が彼女に届かない事を悟る。  「これまでありがとう。イゾルデ……お前には本当に感謝していた。大切な仲間だと思っていたよ……本当だ」  「ユーイン……?」  宮廷魔道師団は、イゾルデの処分をどうするか、すべてを国王の判断に委ねた。  イゾルデほどの魔道師を失うのは国にとって大きな痛手だ。しかし今回の事件は上の者たちの頭の中に、“これほどの力を持つ者が反逆者となった時にどれほどの脅威となるか”という恐怖を植え付けた。  そして下された判決は死罪。  ユーインもクレイグも、そして宮廷魔道師団に所属する誰もが、その決定に関し異議を唱えなかった。  イゾルデに対する仲間意識や情がなかった訳ではない。  しかし、イゾルデに対する気持ちに勝るとも劣らないほどの想いを、皆がリーリアに抱いていたことも要因だったのだ。  ユーインは静かに席を立つ。  そして一度もイゾルデを振り返ることなくドアノブを回した。  「待って!待ってくれユーイン!また顔を見せてくれるよな?せめて最期の時くらいは……ユーイン!?」  だが、ユーインは決して振り返らなかった。  扉が閉まった後も、ユーインの名を呼ぶイゾルデの悲痛な叫び声が廊下に響いていた。  ところ変わって王都のクラウスナー侯爵邸。  父親であるクラウスナー侯爵に呼び出されたオスカーは、自身が呼び出された理由がわからず困惑していた。  父が座る執務机の前に、かれこれ一時間近く立たされたままなのだ。  「父上!!何かあるならはっきりとおっしゃってください!!」  こうやって痺れを切らして訴えるのも何度目だろう。  クラウスナー侯爵はオスカーを睨みつけたまま、微動だにしない。  「……お前は今日この時をもって、母親と共にクラウスナー侯爵家から除籍する」  「なっ!?何をおっしゃっているのです!!」  ようやく口を開いた父親から告げられた言葉に、オスカーは驚愕する。  「今回の騒ぎ……お前が関わっているそうだな。本来ならクラウスナー侯爵家は、一族郎党斬首に処せられても文句は言えないところだが、陛下はお前の首ひとつで済ませてくれるそうだ」  オスカーは青褪めた。  いったいなぜ、どこで漏れたのか。  しかしまだ乗り切れると踏んだオスカーは、泣き落としに出た。  「私は何もしておりません!!父上!!無実の息子を見捨てるおつもりですか!?」  「この馬鹿者がぁっっ!!」  クラウスナー侯爵は机の上に載っていた便箋をオスカーの顔めがけて叩き付けた。  床に散らばり落ちた便箋には、女性であろう筆跡が綴られている。  父親のあまりの剣幕に驚いたオスカーは、便箋を急いで拾い集めたが、その内容を目にした途端固まった。  そこに記されていたのは、先日斬首刑が決まった黒魔導師団長イゾルデ・キルシュの告白。  今回の件はオスカーに唆され、自分自身の弱さに負けたせいだと書かれていた。  イゾルデがユーインの身に危害が及ばぬようにと残した最期の手紙だ。  「陛下はお前の首で許すと確かにそうおっしゃられた。自分で蒔いた種は自分で刈り取れ。今後この件については陛下に一任し、クラウスナー侯爵家は一切関わらないと決めた」  「そんな!私はこのクラウスナー侯爵家唯一の男子ではありませんか!私を失ったらこの家はどうなるのです!」  「お前などいなくてもユーインがいる。そして優秀な甥たちもな」  何の問題もないと言い残し、クラウスナー侯爵は部屋を出て行った。  「待ってください父上!!父上──っ!!」  オスカーに返ってきたのは、遠ざかる父親の足音だけだった。  ***  「ユーイン様……!!」  イゾルデの元から戻ったユーインを、リーリアは両手を広げ、抱き締めた。  今回の騒動の後処理に追われてたユーイン。  こうやってふたりきりの時間を過ごすのは、彼と結ばれたあの日以来だ。  「リーリア、ただいま戻りました……」  「お帰りなさい……」  ユーインがイゾルデに会いに行った事は聞いていたが、予想以上に酷い顔色だ。  つらかったか?などと軽々しく聞けない。  ユーインとイゾルデには、ふたりにしかわからない絆がある。  つらくないはずがないのだ。    「あなたに謝らなければならない事があります」  「謝る……?」  「あの日私は、あなたの救出よりも目の前の民を救う事を優先しました……あんな危険な目にあわせたのはすべて私の責任なのに……本当に申し訳ありませんでした……!」  ユーインの腕は、華奢なリーリアの身体を痛いほどに抱き締める。  「ユーイン様の取った行動は、白魔道師なら当たり前の事です。目の前の命を最優先にと、私にそう教えてくださったのは他でもないユーイン様ですよ?」  「ですが……!!」    「私は、ユーイン様を何よりも誇りに思います。だからもう謝らないで……」  リーリアはそう言うとユーインの胸に顔を埋めた。  大好きな彼の香りが肺を満たし、ようやく心から安心できた気がした。  「リーリア……」  少し切なげな声。  上を向くと、大きな手が頬を包み、ユーインの唇が近付いてきた。  その瞬間、リーリアの脳裏にクレイグとの口づけがよぎる。  「……リーリア?」  「は、はい!」  あれは、言わなくてはならない事だろうか。  自ら望んで口づけた訳ではないのだが、何故か凄まじい罪悪感に苛まれ、胸が痛い。  しかし隠し事は良くない気がする。  なら言う?  しかし宮廷魔道師団はようやく落ちついてきたところなのに……  「リーリア、やはり怒っているのですか……?」  ユーインは叱られた子犬のような目でリーリアの答えを待っている。    ──か、可愛いぃぃい!!  駄目だ言えない。  あれは事故だ。きっとクレイグも、命の危機を感じて情緒がおかしくなっていたのだ。  リーリアは無理矢理そう思うことにした。  そしてこの件は一生秘密にしようと。  「ユーイン様……今夜は……一緒にいてくれますか?」  自然と上目遣いになってしまう。  まるで欲しがっているようで恥ずかしい。  しかし、ユーインの瞳はそんな羞恥など忘れさせるほどに、リーリアを求め、熱く潤んでいた。  「リーリアが望んでくれるなら……!」  そしてその夜、ふたりは再び身体を重ねた。  夜が明けて、昼を過ぎても寝室の扉が開くことはなかった。  ***  イゾルデの起こした騒ぎはまたたく間に王都中に広まった。  悪意ある者は黒魔導師を悪魔のように口汚く罵り、国から排除すべきだという声も上がっていた。  しかし、そんな世論を黙らせるかのように、事件から程なくして、宮廷魔道師団に新たな師団長が立つこととなった。  「クレイグ様」  ドアから顔を覗かせたリーリアに、クレイグは笑顔を向けた。  「おや、嬉しいですね。愛の告白にでも来てくださったのですか」  「ち、違います!ひと言お祝いを言いたくて」  今日はクレイグが師団長に就任する日だ。  彼はこの後、国王から指名を受けて、正式に宮廷魔道師団の師団長の名を授かる。  「うるさい婚約者は?今日は一緒ではないのですか」  「その言い方……」  リーリアとユーインは、このほど正式に婚約したばかりだ  と言ってもリーリアの強い希望で式などは執り行わず、指輪の交換をしたくらいだが。  「ユーイン様なら今日の段取りについて団員の皆さまにお話があるそうで、私もすぐに戻らなくちゃいけないんです」  リーリアも、白魔道師と同じローブを身に纏い、研究所代表としての参加である。  「そうですか……殿下、申し訳ないのですが少し手伝っていただけますか?」  クレイグはローブに付ける飾りを手にしている。  以前ユーインの着替えを手伝った時に付けたものと同じだ。  リーリアはクレイグの側に寄り、飾りを受け取ろうと手を出した。  すると、クレイグはリーリアの手を取り、抱き寄せた。  「きゃっ!!ちょ、ちょっと、クレイグ様!?」  「殿下、私は寛大な男です」  「は?」  「二番目で構いません。あくまでですが」  「はぁ!?」  訳がわからず腕の中でもがくリーリアの顔に、クレイグは羽根のように軽いキスを落とす。  「ちょっと!!」  こんなところをユーインに見られたらとんでもないことになる。  しかし悲しいかな非力なリーリアが抗う術はない。  「私も魔道師団長になりましたので、身分としては申し分ないかと思います」  「何のですか!?」  クレイグはにっこりと微笑んだ。  「私を殿下の二番目の夫にいかがでしょう?」  「に、二番目の夫!?」  何を言っているのだこの男は。  リーリアはグーで思いっきりクレイグの胸をタコ殴る。  「冗談は止めてください!!」  「冗談ではありませんよ。言ったでしょう?殿下は私たち魔道師にとって眩しい光だと。だからもう色々と諦めて、私たちの愛に溺れてくださればいいのです。私とユーイン殿……ふたりの魔道師団長の愛にね」  これにはリーリアも絶句した。  しかし彼女が本当に絶句するのはこの直後。  「リーリア、もうすぐ式典で……」  ノックもせずに入ってきたユーインの目に映ったのは、リーリアと身体を密着させて耳元に唇を寄せる犬猿の仲の黒魔導師。  クレイグ・シズリーが師団長に就任したその日、白魔道師ユーイン・オルブライトが、魔道師として更なる力の覚醒をしたことを魔道師たちはまだ知らない。  王女は魔道師団長の愛に溺れる  完
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