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0.真冬の記憶
私はオープンカフェのテラス席にちょこん、と座った。「お一人様」の席に。
メニュー表を確認する。あれは……。よし、ある。このカフェはドリンクもスイーツも何もかもが美味しい。と小耳に挟んだので、次の休日に絶対に行こう! と、心に誓っていた。
真っ白なカフェテーブルの端っこで、申し訳無さそうに佇んでいる呼び出しベルを優しく押す。と、リン♪ と可愛らしい音が鳴った。店員さんが、こちらに近づいて来る。そして、伝票をひょい、と取り出す。
「ご注文はお決まりですか?」
「えーと。このスフレパンケーキにトッピングで生クリームを増量したやつを一つ! あと……。」
あと、と次の言葉を発しかけた。しかし、言葉が喉の奥で詰まったかのように声が出ない。
「? ご注文は以上で宜しかったですか?」
いけない。あの言葉に動揺しちゃ駄目だ。もう、先輩の事は記憶から消し去ってしまおう。そう決めていたのに……。落ち着け、私。ゆっくり、丁寧に詰まった言葉を取り出す。
「……あと、アップルティーを一つ。以上です。」
「はい。少々お待ち下さい。」
店員さんが厨房へと、そそくさと歩いて行った後。スフレパンケーキとアップルティーをそれぞれ一つ! パンケーキは生クリーム増量! という声が聞こえてきた。
空は晴れ渡っていて、雲一つ無い……嘘付いた。小さな雲が宙を漂っている。雲一つだけある空だ。
テラス席には、私一人。このカフェは人気店だ。けれど、最低気温が0℃近くの真冬の日にわざわざテラス席で食事するのは……私だけだろうな。テラス席のオーニングに感謝しよう。
さてと。待ち時間は、私からしたらあくびが出そうに成る程に暇な時間(全人類そうかもしれないが)。なので、スマホをいじろうとしてバッグからそれを手に取る……。
赤いチューリップのシールが貼ってある、無地のピンク色カバー付きのスマホ。そこで、かちゃ、と何かが音を立てた。私は、それを見つめる。嗚呼、忘れていた。これは___。
私の瞳には。スマホカバーに細い糸で括り付けた、小さい小さいクマのぬいぐるみのキーホルダーが映っていた。
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