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「あ、架純」
落ち着いた雰囲気のその声が、私の名前を呼んだ。
「藍斗」
お洒落なシルバーピアスを付け、スクールバックを肩にかけた男子中学生は、架純の幼馴染だった。
「莉音は? 一緒に帰ったんじゃないの?」
「もうとっくに先に帰ってる。あいつの方が、家近いじゃん」
そう、と架純は小さく呟いた。
「架純だって、先輩と帰ってたじゃん」
「ああ」
そう、架純自身も3つ年上の高校生と帰っていたのだ。
だが、決してその先輩が好きというわけじゃない。
ただ、知り合いで、かっこ良かったからつい、そういう軽い気持ちだった。
「――もしかして、莉音のこと疑ってる⁉」
静けさの中で、藍斗の声が響き渡る。
「疑ってるっていうか、なんていうか。上手く言えない」
顔は地面を見つめたまま、架純は答えた。
「違うって!!」
「知ってる。そんなの昔から知ってるよ……」
とっくのとうにそんなことは知っていた。
架純が不満げなのは、自分に向けだったのだ。
「――ねえ、藍斗?」
「ん?」
「――大好きだよ、ずっと昔から」
アスファルトに雫が一滴、二滴……と落ちていく。
すると、架純はゆっくりと顔を上げ、告げたのだ。
「もう気付いた時には完全に好きだった……。好きで、好きで、もはや苦しかった……」
涙が流しながら言う架純を、藍斗はつい抱きしめた。
「伝えなきゃいけないのは分かってる、でもでもっ――」
「俺だって、ごめん。俺がもっと早く伝えてれば――」
「ううん。こうやって今、伝えられたから……それでいいの」
黄金のように輝く夕日の中で、藍斗はついに伝えたのだ。
「――大好きだよ。俺も」
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