あとは知らない

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あとは知らない

 先週会った女子大生は頬骨が出てるからブスっぽく見えたし不合格。  昨日リモートで話した二十代の女は前歯がちょっと出ていてキモいから不合格。  今日も一応約束してるけど、こいつ鼻が丸くて田舎くさいブスの匂いがするから、どうしよっかな。  マッチングアプリってマジでろくな女いねえんだよ、と昼休みに食堂で口の周りをトマトソースでべたべたにしながらナポリタンを食べる同僚は、嫌な笑みを目の端に浮かべる。  俺も一緒に写真を確認しているけれど、そこまで酷評するほどの容姿を持っている女性たちでもないし、むしろ優しそうな雰囲気を醸し出している相手もいた。  頬骨がとか言っていた彼女だって笑顔がふんわりと柔らかく、加工でどうにでもなんだろと毒づく同僚は置いといて、自分としては悪い性格ではなさそうだなと勝手に想像してしまった。  そういえば、部署にいる女性社員のビジュアルを勝手にわざわざエクセルで格付け表まで作って社内メールで送りつけてきたよな、こいつ。  前からうっかりしているところがあるうえに、気づくのも遅いからまだ自覚していないようだけれど、俺だけじゃないと思うんだよなあ、アレを見た奴って。  こいつが自分のアカウントに作った、同期グループのアドレスを格納したフォルダの名前が、送信先に表示されていたからなあ。  三十六計逃げるに如かず、とは今のことかもしれない。 「悪い、仕事思い出したから戻る。お前はゆっくり食ってろよ」 「真面目だなあお前って、たまには俺のブラックジョークに付き合っても......」 「今日が最後かもな。たぶん」 「え?」  そう言い残して、席を立つ。  やはり同僚は気づかずに、ナポリタンを頬張っていた。  周囲の視線にも、ヒソヒソ話にも。  だんだんと太っていって、ワイシャツのボタンがはじけそうな腹やこってりと脂が染みついたフケまみれの髪に無精ひげといういかにも小汚い佇まいをしているくせに周囲を格付けするなんて、こいつの家には鏡もないんだろうか。  ねえ、○○。  ちょっといいかな、メール読んだんだけど。  同期の出世頭で、同僚が「顔がきつくて生意気で、一生懸命なところが痛い」とか、もっと生々しい酷評を格付けにびっしりと書いていた女性社員の△△が、テーブルのそばで仁王立ちになり、声をかけていた。  あとは知らない。  ただあいつが使っていた、菓子の食べカスや空き缶が転がったデスクがきれいに片付いて、新人が使う予定になったことだけしか知らない。
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