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 相手の弾んだ声に、私は口をへの字に曲げた。 「じゃあおとこのこがいい」 「どうして?」 「おんなのこだったら、その子におとーさんをとられちゃうから」  相手は少しの間固まった。相変わらず顔がぼやけているため、細かい表情は読み取れない。 「取られちゃうのは嫌?」  声からは満足そうに微笑んだ顔が想像される。 「うん。ほんとはね、はるな、ひとりがいい」 「お姉ちゃんにはなりたくないってこと?」 「……うん」  私は下を向いた。相手は続きを待っているのか黙ったままだ。 「……おとーさんを、とられたくない」  前を向けなかった。それでも相手の視線を感じる。 「大丈夫」  相手の手がこちらに伸びてきた。頬をそっと撫でられる。 「晴菜がお姉ちゃんになっても、お父さんは晴菜を大事にする」 「あかちゃんのことも、」  私は、思わず前のめりになって言葉を発した。 「ん?」 「あかちゃんのことも、だいじにしてね。あ、でも、はるなのことも、もっと、だいじにして。ひとりじめは、やだ」  相手は一瞬固まったのち、はっはっは、と笑った。気のせいか、リビングの日差しがいっそう強くなった。 「もちろん、赤ちゃんのことも、晴菜のことも、大事にするよ。そしたら、晴菜はお姉ちゃんになる?」 「うん。そしたら、はるな、おねーちゃんになりたい」  私がそう言うと、今まで見えていたものは何だったのか、相手の顔が急にはっきりと見えた。左右の頬にえくぼが刻まれていた。私はこの笑顔を見るために生まれてきたのだ──つられて私も口角を上げた。  彼の後ろからは、ひまわりがちょこんと顔を覗かせた。小ぶりの日輪が四つ、私たちを温かく見守るようだった。
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