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仕事に燃えていた僕は、ある日体調を崩して会社を休んだ。
翌日、佐藤先輩が「治って良かったな。いつも元気なのはいいけど、無理しすぎないように気をつけろよ」と声をかけてきた。
「ご迷惑をおかけして、すみませんでした」と僕は頭を下げる。
「お前、無駄に熱すぎるんだよな。もっと肩の力を抜いて仕事したら?」
佐藤先輩が苦笑する。
「そうですよね。時々、自分の熱すぎる性格が直ればいいのにと、真剣に悩む日があるんです」
「気にすんなよ。あっ、そうだ。ちょうど健康診断の結果が来てるんだった。これ、お前のだ」
先輩から封筒を受け取り、その場で開封した。
「あれ? 項目に短所っていう欄があるんですけど、何ですか? 熱すぎるため要ワクチンって書いてあります」
「今年から著しい短所を持っている人は、希望があればワクチンで短所を抑えることができるようになったんだ。効果は数年間だけなんだけどな」
「僕はワクチンで短所を抑えた方がいいってことですかね?」
「まあ、要ワクチンって書いてあるからなぁ」
「うーん……ワクチン打ちます!」
「おっ、そうか、頑張れよ!」
というわけで僕は、さっそくクリニックへ予約を入れた。
クリニックに行くと、一般の患者達とは違う部屋に通された。
部屋には十人ぐらいが待機していて、どの人も性格に一癖ありそうな独特の雰囲気を醸し出していた。
しばらくすると、看護師に名前を呼ばれた。
診察室に入ると医者が注射の準備をし始める。
「その注射が……」
「熱すぎる性格の人用の短所ワクチンです。打てば、3年間は熱すぎるという短所を抑えることができます。では、腕をこちらに出してください」
僕は右腕を出した後に、やっぱり治療を断ろうと思ったが、もう手遅れだった。
チクリと痛みがして、短所ワクチンが体内に入った。
次の日から僕は丁度いい熱意で仕事に取り組めるようになった。
無理をして体調を崩すこともなくなった。
一年が過ぎ、また健康診断の結果が届いた。
「今回はどうだった?」
佐藤先輩が興味津々に聞いてきた。
「短所の欄に要ワクチンって書いてあります。相談ができないという短所があるみたいです」
「あー。言われてみれば、今年、あんまり相談されたことないな」
「僕は社会人として、相談すべき時に相談できる人になりたいです」
「短所ワクチンを打つんだな?」
興味津々に、佐藤先輩が聞いてきた。
「もちろん打ちますよー!」
「とても積極的だなー!」
というわけで、僕はワクチンを打ちに行き、それからは相談すべきタイミングで相談できるようになった。
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