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夜の10時になった。
厨房の後片づけも終わり、一哉は賑やかにこの後の予定を立てている同僚達を後目に裏口を出た。
外は真っ暗で、調子の悪い外灯の光だけが道を照らしていた。
残飯を捨てに出た時より寒さが身を刺すように感じる。
鳴き声は聞こえない。
さすがにもういないだろう、っと思ったが、なぜか妙に気になって、段ボールの中を覗いた。
そこには、隅の方で小さく縮こまって震えている黒猫の姿があった。まだ子猫のようだ。
一哉は、それを見ても何も感じなかった。
ただ黙ってそれを見つめる。
まるで感情のない機械(ロボット)のように、生きながら死んでいるのだ。
『私、黒猫って好き。なんか神秘的な感じがしない?
気味悪がって嫌う人とかいるけど、あんまりだわ』
かつて、結未が一哉によく言っていた言葉だ。
『黒猫って、魔女の使いだったの、知ってる?
きっと、わずかでも魔力を持ってるのよ』
そう言って結未は、悪戯っぽく笑った。
「お前、魔女に捨てられたのか?」
その時だった。
「こうらあ―!!」
一哉の耳元で誰か怒鳴った。
「こんな所に猫を捨てよって! 凍え死んじまうじゃないか!」
怒鳴り声の主は、一哉に罵声を浴びさせると、黒猫を抱き上げ、自分のコ―トの中にくるんでやった。
「可哀相にのぅ~、寒かったじゃろう」
それは、白髪の一人の老人だった。
老人は、よしよし、と黒猫を撫でてやりながら言った。
「動物を飼う時は、責任を持って最後まで面倒みんといけん。
どんな理由があろうともな。
たった一つの命なんじゃから」
「あ、あのう……俺が捨てたんじゃないんですけど」
老人は、ん? っとあっけにとられた顔をして、笑った。
「わっはっはっは! すまん、すまん。わしの勘違いだったようじゃな」
老人は、怒鳴ったりして悪かった、と一哉に謝って、また笑った。
そして、この猫をどうするか、っと考え出した。
「ふ~む。お主、こいつを飼う気はないか?」
老人は、一哉の目を見て言った。
「え、いや俺はただ見ていただけなんで……」
一哉はなんとか上手く言って、この場を去ろうとした。
「お主には、こいつが必要のようじゃ」
一哉がその意味を聞き返す前に、老人は抱えていた猫を一哉に渡した。
「しっかり面倒を見てやるんじゃぞ。命は大切にせんといけん」
「え? あ、あのっ……!」
老人は、一哉が止める間もなく闇の中へと消えていった。
すると、辺りを再び静寂が襲う。
腕の中の子猫が小さく鳴いた。
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