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耳に痛いほどの静けさの中で、俺はゆっくりと目を開ける。部屋の中にあるのはトイレと水が入ったペットボトルが一本あるだけで、他には何もない。一つだけある扉には外側から鍵がかかっており、誰かが開けてくれない限り出られないようになっている。
ここに閉じ込められたのは昨夜のこと。大学の仲間の一人が、卒業して社会人になる前にそれぞれの苦手なことを克服しないかと言い出し、俺以外の全員が乗ってこういうことになった。
俺が乗らなかったのは、他の仲間たちが俺を貶めようとしているからというのもあるのだが、それ以上にこの苦手を克服しようとすれば何が起こってしまうのか分からなかったからだ。
静寂の中でぼんやりと座り込んでからどれぐらいの時が流れた頃だろうか。耳元で誰かの声がし始めた。
「……、……」
ぼそぼそとしていて言葉を上手く聞き取れない。それなのに、いやに耳につく。耳栓をしても意味はない。
それが恐らく小一時間ほど続いた頃だろう。俺は叫びたい衝動に駆られ、発狂し、自分の頭を壁に打ち付けて気を鎮めようとした。
幼い頃の残像がくっきりと脳裏に蘇る。
母親に躾だと称して数日間閉じ込められた時、俺は正気を失い、気がつけば血だらけの母親が目の前に倒れていた。
俺は静寂が怖い。だがそれ以上に。
騒ぎを聞きつけたのだろう。部屋の外から仲間たちが扉を開けるかどうかで揉める声がする。
俺は薄れゆく意識の中で、一番初めにいなくなるのは誰かを考えていた。
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