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ある日、私が町の図書館へ行くと、彼女がいた。彼女は、熱心に本棚を見ていた。私は帰ろうかとも思ったが、どうしても課題で必要な本があったので、彼女と距離をとりながら本をさがすことにした。
もし、会っても無視すれば良い。
本を借りて帰ろうとしたら、彼女が座って本を読んでいるのが見えた。その本の表紙を見ると、それは私の好きな本だった。架空の国が舞台のファンタジー小説だ。
それを見て、私は複雑な気持ちになった。彼女とは何の共通点もないと思っていたけど、好きなものが共通していたのだ。
でも、それが何だというのだろう。それで、彼女と友達になれるわけではないし、話そうとも思わない。
私は図書館の外へ出た。すると、後ろから「待って」という声が聞こえた。
私が振り返ると、彼女が立っていた。
「原田さん、この本、好きなんでしょ。前、図書館で読んでいるのを見た。私も好きなの」
私は何も言わない。でも、その場から動けない。
「この本の、主人公はまっすぐで立場が弱い人に優しくて、自分を犠牲にしても他人を守る人。そうだよね」
そう。彼女の言う通りだ。主人公のそんなところが私は好きだった。
「原田さんの気持ちもわかるよ。私を無視しないと、いじめられてしまうもんね。でも…」
彼女の目から涙がこぼれた。
「この本が好きなら、どうして、一言でもいいから私に声をかけてくれなかったの?」
そう言うと、彼女はまた図書館の中へ戻った。
その時、私は今まで押し込めていた気持ちが体中に広がるのを感じた。人を傷つけた後悔、自分への怒り。身体がぐらぐらとゆれたように感じた。
でも、私は彼女に謝ることができなかった。また、彼女の涙を見たら、自分が壊れてしまいそうで怖かった。
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