第5章:キミが好きです

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✳︎✳︎ 次の日の土曜日 ✳︎✳︎  朝になると、結芽(ゆいめ)は祥一郎の腕に寄り添うように寝ていた。  祥一郎は、結芽の手厚い看病で朝には熱が平熱近くまで下がっていて、顔色もずいぶんよくなっていた。  チュンチュンと雀の鳴き声に朝を知らせてもらいながら、祥一郎はゆっくり目を覚ます。   「..........」  天井から()を左右に動かし、今いるところが結芽の部屋だと気づいた。  結芽の部屋は、祥一郎のマンションとは違い、 1 DK6畳程の部屋で、ベッドとテーブル、テレビと一般的な家具や電化製品を置くだけで、部屋の中は窮屈だった。  けれど、生活感のある女の子らしい部屋だった。  サーモンピンクのポリエテル素材のカーテンがカーテンレールから幕を下ろし、クローゼットの上には小物やぬいぐるみなどが置いてあって、その中にはひと際目立つ、ボロボロのくまのぬいぐるみが置いてあった。 (やけに年季入ってるクマだな......)  ボロボロのくまのぬいぐるみは、2歳の誕生日に父親からもらった『くぅたん』で、21歳になった今でも結芽は大事にしていた。  顔を右下にずらすと、そこには四六時中、頭の片隅から消えることがなかった結芽が自分の腕に寄り添うように寝ていた。 (あれからずっと看病してくれてたんだ......)  カールした長い睫毛の下で瞼を閉じたまま、静かに眠る結芽を愛しく想った。  祥一郎の右手が結芽の髪を撫でようと手を伸ばす......。  (......そういえば今何時......?)  自分の体温であたためられた額のタオルを手で取り、結芽を起こさないように上体を起こした。  壁にかかった時計の針は、朝の08:24を指していた。   (何とか仕事には間に合いそうだな......)  ベッドから降りようと、上体をゆっくり少しずつ起こす途中、布団の一部が結芽に触れ、結芽が目を覚ましてしまった。 「あ、ごめん......」  結芽はゆっくりと瞬きをしながら、とろんとした目を覚ます。 「起こしちゃったね......」 「......祥一郎さん......おはようございます」 「おはよう」  結芽は、細い腕をすぅーっと伸ばし体をほぐしたあと、祥一郎の額に右手をゆっくり当てた。 「熱下がったみたいですね......」  安心したのかホッと胸を撫で下ろした。 「ありがとう。結芽ちゃんのおかげでよくなったよ」  結芽の顔を見つめながら、祥一郎は素直に感謝の気持ちを伝えた。 (久々に結芽ちゃんの顔を見た......)  仕事に行かなければと、思い出したように立ち上がると、結芽は遅れて立ち上がり、祥一郎の腕を掴んだ。 「ん?」 「今から仕事行くの?」 「うん、そうだよ」 「熱ぶり返しちゃうよ?」  心配そうに眉をしかめながら、結芽が祥一郎を見つめた。 (ヤバイ、かわいい......)  祥一郎は、感情のまま結芽をそっと抱き寄せた。 「祥一郎さ・・・ん?」 「ごめん...... ちょっとこのままで......」 「うん......」  時間が止まったような気がした。    このまま止まってくれと思った。 「結芽ちゃん......」 「はい......」 「俺の気持ちに気づいてなかった?」    祥一郎はストレートに言えず、思わせぶりな言葉で伝えようとした気持ちに、結芽が気づいてなかったのか気になった。 「気持ち?」 「うん」 「...............」   「Potpourri(ポプリ)の帰りに車の中で俺が言ったことや、WACK(ワック)で結芽ちゃんの腕掴んで言ったこと......」    黙り込む結芽に、どうしてもこのまま終わりたくない祥一郎は、意を決して心の内を再度打ち明けようとするも、ここでもハッキリストレートに言えないヘタレな自分にもどかしさを感じた。 (何でストレートに言えないんだ......)   「何のことですか?」  結芽は何故かここでもとぼける。 「俺が言ったこと気づいてない?」 「勘違いしないでほしいってことですか?」  祥一郎は、失笑する。 「結芽ちゃん...... もしかして気づいてるのに、俺にカマかけてる?」 「ん?」 「俺の気持ち、ほぼ言ってなかった?」 「何か言ってましたっけ?」 「結芽ちゃんいじわるだ!」   「ええーっ?」 「......ほんとにわかってないの?」 「...............」 結芽がだんまりする。 「......祥一郎さん......」 「ん? 何?」 「私...... 言われた言葉をひとりで勝手に解釈して勘違いしそうで怖いんです......。 祥一郎さんが言ってくれた言葉を私が勝手に解釈して、受け止めたことと同じならすごく嬉しいけど、もし違ってたらと思うと......。 だから、はっきり言ってほしい......」 「そか。.......なら、はっきり言うよ?」 「はい......」  祥一郎は、腕に抱きしめていた結芽をそっと解放し、結芽の肩に手を置いたまま、真剣な眼差しで結芽を見つめながら言う。 「結芽ちゃんのことが......」  寸止めして歯を食いしばる祥一郎。  今まで耳にタコができるほど自分に想いを寄せる女性から聞いてきた言葉がプライドなのか言えない。 (言え!! ここで言わないと男じゃねー!!)  ふぅーと軽く息を吸った。 「結芽ちゃん......」 「はい......」 「...... 好きです。 こんな好きとなかなか言えない俺の彼女としてこれから付き合ってもらえませんか?」    結芽は黙り、ひと呼吸したあと言った。   「私も、祥一郎さんが好きです。 私の彼氏としてこれから付き合って下さい。 お願いします」  結芽は、うっすら涙ぐみながら返事を返した。  祥一郎はクールな切れ長の目にシワが寄り、クシャッと笑った。  イギリス家系の血をひく、ブルーの色素の薄い祥一郎の瞳が潤む。  愛しい気持ちを抑えきれなくなって、祥一郎は結芽をまた抱き寄せた。     今度はきつく・・・。  祥一郎の熱く火照った身体が、ドキドキと高ぶらせた鼓動を結芽の耳元に伝える。   「祥一郎さん、すごくドキドキしてますね」 「うん...... 気づいた?」  祥一郎は、結芽を腕に抱きしめたままはにかみ笑いをした。 「はい。 私もすごくドキドキしてます」 「うん、そだね。 俺も、結芽ちゃんがすごくドキドキしてるの気づいた......」  嬉しそうにする祥一郎。 「ごめん...... またちょっとこのままで......(結芽ちゃんの顔見たらキスしてしまいそう......)」  結芽が、祥一郎の服をギュッと掴んだ。 (ヤバイ...... かわいすぎる・・・ ♡)  祥一郎は熱くなる身体を抑えるのに必死だった。 「結芽ちゃん、それツボ♡なんだけど・・・」 「え?」 「そのギュッてしてくるやつ......」 「あ、ごめ......」  祥一郎は我慢ができず、結芽の頬にキスした。  結芽は目をまんまるくして固まった。 「風邪うつしちゃうといけないから、ココで我慢♡」
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