光流岳 12月

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雪と格闘すること5時間。標高2500メートルを超えたあたりだろうか、バサバサと雪が上から落ちてきた。他の登山者が降りてきたのだろうか。 見上げたその時、雷が落ちたような轟音とともに視界がふさがれ、ものすごい力で後ろへ突き飛ばされた。体は縦にひっくり返る。その後は縦も横も分からぬほど縦横無尽に転がりながら押し流されていった。 「雪崩だ......!」 そう意識した時には口にも鼻にも雪が入り込み、叫ぶこともできなかった。 とめどなく流されていく体を停止させようと、ピッケルを雪面に突き立てた。 だが雪の勢いに抵抗することは叶わない。ならばと雪面に出られるよう、滑り落ちる雪の中を泳ぐかのようにもがき続けた。 (このまま雪崩なんかに負けるかよ) 手の先だけでも地上に出ていれば、自力で雪から這い上がることができる。 だが体が雪に完全に埋もれてしまえば、生還できる確率は50%といわれている。このままデブリとよばれる雪だまりの中に落ちてしまうと体が埋没する可能性が高い。 雪崩のスピードは最高で時速200キロに達する。 視界はどんどんと暗くなり雪崩の底に突き落とされたような感覚に陥った。 ガツン、と頭に固い物が当たった。 目の前が雪景色よりも白くなった。
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