41 迷わず前進

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 対話的理性……価値相対主義……  法学の教授が、次々と黒板に文字を記していく。  前期の法学では、60点という不名誉な成績を残した。単位取得の最低ラインだ。最低点の理由は、憲法護憲派の教授に憲法改正を強く主張したからとの疑惑があるが、真偽不明。  僕は、後期試験のために、全ての教授について検索し彼らの専門分野や主張を抑えておいた。  なるべく前で真ん中の席に座るようにしている。成績には関係ないだろうが、教授へのアピールもある。  しかし今、僕は講義室の一番後ろ、出入り口近くの席に座っている。  後期の法学講義に、60点なんてみっともない証は残したくない。  が、今回は特別だ。  法学講義の仲間に、あとでノートを見せてもらうよう頼んだ。仲間は僕の行動を不審に思っているかもしれないが、そんなことはどうでもいい。  講義終了十五分前、僕はノートパソコンをリュックにしまい、席を立った。  講義棟の廊下をバタバタ走り建物を出た。講堂に向かって全力疾走をする。  この大学は街中にある割にはかなり広い。三つの区の境にあるため、同じ大学なのに建物によって町名どころか区も変わり、最寄り駅も二つある。  この広さは快適だが、今は恨めしい。  敷地をドタドタ走る僕は、なんて無様なんだ!  僕は、篠崎あいらが受講している科学史の会場へ駆けていった。
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