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27章 おたねとの契り
(一)古市遊女の矜持
宇七が座敷に戻ると、そこにはおたねとの床入れの布団が用意がされていた。
ーほんとうにまた、おたねを抱けるのだろうか?
まだ信じられない気持ちで待っていると、部屋に着飾ったおたねが現れた。
「今宵は御指名ありがとうござりんす。」
「変な廓言葉はやめてくれ。昼間みたいに、啖呵を切ってくれ。」
昼の座敷を宇七が中座したので、客への無礼を働いた、怒らせた、と叱られたに違いない。
あらためて見ると、堤重のころとは別人のようだ。着物もたたずまいも、格段に遊女らしい…自分が会いたかったおたねは、これじゃない、そんな気持ちが押し寄せてくる。
「おたね…俺がここに来たのはな、助平心だけ…というわけでもない。」
「へえ。さいでありんすか。」
宇七は胸元から手紙を取り出した。川越のおたねの実家を訪ねたときに、弟から預かったものだ。
「おたね…いや、お駒。お前が金貸しに身売りしているのを、家の者は助けたいと思っているんだ。」
「…助けたい?」
おたねは手紙をひったくるように取ると、目を通した。
「宗次郎…元気のようだね。だけど、江戸のお侍さん。」
「宇七郎な。」
「宇七郎さま、あたしは金貸しにここに売り飛ばされたわけじゃ、ないんだよ。」
「どういうことだい?」
おたねの男に金を貸した金貸しは、江戸の大火で死んだという。借金取りはもうおらず、安倍川町に行ったのは、江戸が大火で不景気だからで、身売りされたわけではない。
「じゃ、なんで今度は古市遊郭にいるんだい?」
「ここは女の出世街道として知られた、古市街道さ。吉原とはちぃと違うのさ。」
古市遊郭はもともと地元の百姓女たちが集まって作った色町だという。ご公儀に管理された吉原よりもはるかに遊女の待遇が良いそうだ。
おたねのいる妓楼の油屋はとくに客筋が良く、伊勢商人などの富豪が多く通い、地元の有力者や大金持ちに見初められて身請けされたり、大神社の宮司の正妻になった遊女もいるという。
「そうか、お前はここで一旗揚げようと思ったわけか。」
「いまさらおめおめと故郷に戻っても、肩身の狭い思いをするだけさ。ましてやあたしには娘がいるからね。遊女の娘なんて言われたら、どれほどつらい目にあうか…」
「娘はいま、どこでどうしてるんだい?」
「寺に預けて面倒をみてもらってるのさ。足元見られてずいぶんと取られるけど、それでも月に1~2度顔を見られれば、どんな地獄の沙汰も喜んで生きられる、ってもんさ。」
「そうか…好き好んで遊女をするって生き方も、あるんだな…」
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