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(三)小豆太夫の艶話
「新之丞どの、お豆さんとは…」
「ない、ない、なにもございませぬ!」
「それでも文が来たのですか?」
「わたくしは座敷を中座し、そのまま亀次郎さんを探しに行ったのですから!」
「…夜は?」
「夜通し、亀次郎どのを見張っておりました。」
「…そうですか。」
ややつまらなそうに、宇七が言った。
「宇七どのこそ、御文が届いたのでは?」
「…いや。いいんだ。俺は。」
宇七が少し落ち込んだのを見て、新之丞は気まずい。
あ、と新之丞が閃いた。
「もしかすると、宇七どのに届いた文も、仁左衛門さまが隠しているとか…?」
「!」
それだ、という顔をすると、宇七がそそくさと部屋を出て行った。仁左衛門の部屋に忍び込まないと良いが…
新之丞にしてみると、あまり、というか、ほとんど女と触れ合ったことがないうえ、九相図の修行で腐乱死体になる美女の絵ばかり見せられ育ったので、美女はかえってご遠慮したいところである。小豆太夫のように楽しそうに話し、皆を笑わせ楽しませられる女子なら、居心地はまぁ、悪くない。
仁左衛門の目を盗んで文を返すほどではないが、次に古市街道に行ったら、きっと小豆が元気か知りたくなるだろう。
ーどうせいつか嫁を取らねばならぬなら、ああいうひとが面白いかもな…
新之丞にしてみれば、これでも一歩前進だ。
そのとき、新之丞の部屋の戸がすっと開き、若い女中が入ってきた。
「新之丞さん、ちょっとだけお久しぶり。」
「亀次郎どの⁉どうなされた?」
それは女中姿になった亀次郎だったが、さすが女形だけあってさまになっている。
「お女中部屋も悪くないんだけど、ちょっと頼みがあって来ちゃいました。」
「頼みですか?」
「ええ。昨晩、あにさんが夢に出てきて。」
「まぁ、そういうこともあるのでは…」
いいえ、と亀次郎は強く首を振った。
「あにさんは不思議なところがおありで、こんなにはっきりと夢に出るのは、きっと呼んでらっしゃるんだと思うの。」
福助に不思議なところがあるのは、新之丞も宇七もうすうす感じている。亀次郎が言うことを頭ごなしに否定することもできなかった。
「何かおっしゃっていましたか、福助どのは?」
「…さよなら、と。」
「さよなら?」
「お身体が、すごく悪いんじゃないかと思うの。できれば、あにさんがどこにいらっして、どうなさってるか知りたいの。もしお身体が悪いなら、お見舞いに行かないと…」
「せんだって、ある屋敷で福助どのをお見かけしたと、宇七どのがおっしゃっていましたよ。身体がお悪いとは、聞いていませんが…」
「あにさんは役者よ。病をおして平気なふりをしてらしたんだわ。」
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