27章 おたねとの契り

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(二)おたねの気持ち 「もし…もし、俺がいま、お前と一緒になりたいと言ったら、どうする?」 「お侍さん、自分の立場を考えてごらんよ。遊女の身請けができるほどのお大尽かい?」 「いや…だが、借金はないと言ったではないか。」 「店にしたらそんなの関係ないさ。吹っ掛けられるに決まってるよ。」 まぁ、つまり、おたねは宇七と一緒になる気はない、ということだ。 「俺が金持ちだったら、話は違うんだろうな。」 「金だけじゃない。家柄もさ。侍と遊女が一緒になれるのは、あの世だけだよ。だからみんな心中するのさ。」 あまりにひどい言葉に、宇七はおたねの口を自分の口でふさぐと、そのまま抱きしめた。おたねはその口を強く吸い返してくる。 ーあれ?思ってたのと違うぞ? そのままふたりは布団の上でくんずほぐれつ、互いの着物をむしり取りあってひとつになった。おたねは宇七の心を裂くような酷いことを口では言うくせに、身体はとろけるようにひとつになりたがる。やがて聞きなれた懐かしい声を上げ始めた。 「やっぱりお前は声が大きいな。」 「誰にでも大きいわけじゃないさ。でも…あんまり大きい声を出すと、叱られるから…」 「心配するな、声が出なくなるまでしてやるから。」 おたねも自分のことを同じぐらい求めている。たった一晩でも気持ちが知れて良かったと思いながら、宇七はおたねを抱き続けた。 果てたあとに、おたねが宇七を抱きしめて呟いた。 「なんにも知らない頃のあたしが、あんたと出会ってたら…」 「何もかも知ってるみたいに悪ぶるな。」 「そりゃあいろいろ知ったさ…」 おたねは寝床の中から天井を見上げて、ぼやいた。 「もう会いたくなかった。あんたと寝ると他の男と寝るのが、辛くなる。」 「おたね…」 宇七がおたねの顔を手で引き寄せた。 「俺がお前にぞっこんなのは、わかるだろう?」 「ぞっこんだけど、それだけさ。一緒に暮らすことも、年を取ることも叶わない。」 「俺はな、このところ、功徳を積んだ坊主と旅をしてるんだが…」 「あのみたいな侍かい?」 「あいつは中身は坊主なんだ…でな、来世ってやつを信じるようになった。来世で生まれ変わったら、俺たちは必ず一緒になろう。今から誓っておけば、きっとそうなる。」 「ふふふ…明日の朝には忘れちゃうんさ、そんなのは。」 「そしたら、明日の朝に発ったら、お前を忘れていないってことを、知らせるよ。」 「どうやって?」 「今から考える…」 それは初めて、ふたりが寝床で抱き合いながら眠りについた夜だった。そして最後の夜でもあった。
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