褪せる日々

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〝好き〟とは言わないところも、〝たぶん〟と濁さないところも、彼女らしい。 僕もジャケットを羽織り、その小さな手から会計札を取り上げた。 「俺はきっと、好きだった」 そして、伝票をチラつかせながら僕は言った。 「これで精算、ってことでどう?」 情けない。恰好付けたくせに、手は震えている。我ながら思い切った告白だったのか、心臓が大槌に叩かれているような気分だった。 「いいよ。全部忘れてあげる」 「偉そうだな」 「何よ、自分で言ったくせに」 居酒屋の喧騒を背後に、彼女は口を尖らせる。見納めになるとしたら、少々後味の悪い表情だ。でもその方が、僕たちにはふさわしいのかもしれない。  「じゃあ」 「うん。バイバイ」 〝またね〟すら言えない、僕たちには。 End.
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