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むかし、むかし、あるところに、おじいさんとおばあさんがありました。おじいさんは山へしば刈かりに、おばあさんは川へせんたくに行きました。
ある日、おばあさんが、川のそばで、せっせと洗濯せんたくをしていますと、かわかみから、大きな桃ももが一つ、「ドンブラコッコ、スッコッコ。
ドンブラコッコ、スッコッコ」とながれて来きました。
「おやおや、これはみごとな桃だこと。おじいさんへのおみやげに、どれどれ、うちへ持もって帰かえりましょう」
おばあさんはうちへ桃を持ち帰り、おじいさんと食べることにしました。そして桃を割ると、中から男の子が現れました。
「おやまあ、元気な男の子だこと。桃から生まれたから桃太郎と名付けましょう」
おばあさんは言いました。
しかしおじいさんは、その安直なネーミングセンスに嫌気がさして、断固反対しました。子供の将来を考えると、可哀想な気がしたからです。
おじいさんは抗議しましたが、おばあさんの口の強いのなんの、おじいさんは言い負かされ、結局桃太郎で押し通されてしまいました。
(くそう、婆さんめ、そんな安直な名前をつけたことを今に後悔させてやるぞ)
おじいさんはおばあさんをいつかあっと言わせてやることにしました。
ある日、おじいさんが山へ芝刈りにいくと、突然、空から巨大なハムが降ってきました。おばあさんが拾った桃と同じくらいの大きさです。おじいさんは喜んで家に持ち帰りました。
ハムを切ると、中には空洞があり、はたまた男の子が出てきました。おじいさんはこれはしめた!と言わんばかりのドヤ顔で、おばあさんに当てつけのようにこう言いました。
「桃から生まれた子供が桃太郎なら、ハムから生まれたこの子はハム太郎だね、おばあさん」
「そんな!おじいさん!ハム太郎じゃあ作品が変わってきちゃいますよ!それにこうしくんやリボンちゃんがいないとハムちゃんずは結成できませんよ!かわいそうだからそんな安直な名前、やめましょう!」
おばあさんがそういうと、おじいさんは高らかに笑い、勝ちを確信しました。自分は桃太郎という名前を強引につけたくせに、ハム太郎をつけるときだけは反対したのです。これは特大ブーメランでした。
結局、おばあさんは桃から生まれた桃太郎とつけてしまったので、ハムから生まれたハム太郎を容認せざるを得なくなりました。さらにおばあさんの的中通り、ハム太郎は名前と現実のギャップに苦しみ、成長するにつれてグレるようになりました。
二人の子供はすくすく育ち、桃太郎はきび団子をもって鬼ヶ島へいくことになりましたが、ハム太郎は毎日親のスネをかじっていました。おじいさんとおばあさんが注意しても、ハムちゃんずのメンバーがいないからハム太郎は本気を出せないといつも言い訳し、働こうとしませんでした。
両親を不憫に思った桃太郎は、鬼ヶ島へハム太郎を強制的に連れていき、宝物を鬼たちから奪還したあとに、ハム太郎を鬼たちに預けました。
「こいつ、ハムちゃんずがいないと働かないって言ってるから、鬼さんたちがハムちゃんずになってあげてね」
桃太郎は無茶苦茶な理屈をつけ、結局ハム太郎を鬼ヶ島に置き去りにしてきました。鬼たちに揉まれれば、きっとハム太郎も立派な働き者になると考えたのです。
これをきいたおじいさんとおばあさんは大変深く悲しみました。まさか名前一つでここまでの事態になるとは思わなかったからです。おばあさんはなぜあのときおじいさんの意見も聞いておけばと後悔しました。
そしておじいさんもあのとき、おばあさんの特大ブーメランをつかって無理にハム太郎という名前をつけなければ、と後悔をしました。自分たちがムキになったせいでかわいい我が子がグレて、すねかじりになり、挙げ句、兄に鬼ヶ島に置き去りにされてしまったのです。
「いやいや、でも僕は安直な名前をつけられてもちゃんと鬼退治をしてきてるでしょ?あいつが働かないのはあいつの責任だよ。名前は関係ない」
おじいさんとおばあさんが悲しんでいるとき、桃太郎のその的を得た一言は本当に二人を救いました。そうだ、ネーミングセンスはなかったのは間違いないけど、こういう結果になったのは自分の責任だ。私達は悪くない。と。
こうして宝を持ち帰った桃太郎とおじいさんとおばあさんはいつまでも三人で幸せに暮らしました。鬼ヶ島に置き去りにされたハム太郎は毎日鬼たちにこき使われ、散々な目にあっていました。そして来世はハムスターに生まれ、ロコちゃんに飼われ、リボンちゃんとラブラブになりながらハムちゃんずを率いる存在になりたいと、いつまでも考えていましたとさ。おしまい。
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