伝言告白大作戦

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※  翌日、胸を踊らせながら森山は、 「おっす、好川! 昨日は楽しめたか?」  意気揚々と出勤するも、好川は押し黙ったままキーボードを叩いている。 「あれ、好川? おーい、好川ってば」 「何?」  冷めきった返事に、森山は眉根を寄せる。 「何でそんな不機嫌なんだよ。せっかく憧れの」 「川澄さんは来なかったよ」  束の間の気まずい沈黙。破ったのは森山だった。 「何でだよ? 伝言は上手くいったはずだぞ。それに嬉しそうだったって係長が」 「僕の大事なラブレター、係長にも見せたんだね」  刺すような視線を向けられ、森山は狼狽えた。 「違う、それは誤解だ! 係長には何も話してない! あくまで伝言を託しただけで」 「じゃぁ、何でレストランに係長がいたの?」  森山は固まった。 「係長がレストランに……?」 「しかも課長まで」  好川は頭を抱え、震え出した。 「僕はレストランで川澄さんを待ってただけなのに……突然隣の席から『何でお前やねん!』って怒鳴られて、そしたらタキシード姿の課長が現れて、それで」 「森山ぁ! どこやぁ!」  好川の言葉の続きをかき消す怒号に、森山は肩をビクつかせた。 「か、係長!?」 「そこにおったんか! 森山……お前のせいで俺は」  大股で魚崎が森山に迫ってきた、その時。 「う〜お〜ざ〜き〜く〜ん」  不気味な声に、魚崎は凍りついた。 「嘘やろ? 上手く撒いたはずやのに」  怯える魚崎の視線の先を追った、森山の二の腕に鳥肌が立った。オフィスの入口扉から半分だけ顔を覗かせた水口が、目を弓形に曲げている。 「恥ずかしがらなくても良いんだぞ。この俺が手取り足取り教えてやるから……な!」  水口にウィンクされ、魚崎はえずく。 「ほんまに勘弁してくれや! 俺にそんな趣味はないんやって〜!」 「ふははっ、可愛いやつめ、逃がさんぞ〜!」  魚崎を追い回す水口の姿に、森山は目眩を覚えた。 「一体どうなってるんだ?」 「あの、すみません」  背後から声をかけられ、森山は、 「何だよ! どう見ても今取り込み中だって分か、川澄!?」  思わず二度見をする。 「ごめん、森山君、今忙しいよね?」  川澄は申し訳なさそうに語尾を萎ませた。 「いや、忙しくない、ことはないけど、どうした? 川澄?」  川澄は口を引き結ぶと、手にしていた赤い紙袋を掲げた。 「これっ、良かったら森山君に!」  川澄は紙袋の色に負けないぐらい赤面する。 「駅前展望レストランの限定クッキー、昨日早く仕事上がれたから買えたの」  森山は人差し指で自分をさす。 「これを俺に?」 「いらない、かな?」  上目遣いになる川澄に、森山はひったくるように紙袋を受け取った。 「いるいる! ありがとな、川澄!」 ――本当は俺、クッキー苦手なんだけどな。  本音は飲み込み、森山は笑った。 「良かったぁ、嬉しい! 五時から二時間並んで買ったかいがあった!」 「に、二時間も!」 「あ、ごめん! 嫌味じゃないからね。私は森山君の喜ぶ顔が見たかっただけで」 「待ってくれ、それは」 「どういうことだ〜森山ぁ〜!」  ただならぬ殺気を感じ、首をゆっくり回した森山は目を剥く。好川が鬼の形相で佇んでいた。 「初めから僕を笑い者にして、自分だけ美味しいとこ持っていくつもりだったのかぁ?」 「違う、誤解だ! 決してそんなつもりは」 「『誤解だ』は聞き飽きたよ……もう許さないぞ、森山ぁ!」  好川に首を締められ、 「好川君ばっかりズルい。私にも構って?」  腕に川澄の胸を押し当てられ、 「係長命令だ! お前が何とかしろ!」 「魚崎、こんな若造なんて許さんぞ。相談なら課長である俺にって言ってるじゃないか。無論、個室で二人きりで」  おっさん達に髪を引っ張られる森山は、叫んだ。 「どういうことか、頼むから誰か説明してくれぇ〜!!」    
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