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森山が会社のデスクで、パソコン作業をしている時だった。
「もう駄目だ、どうせ僕なんか……」
隣で同期の好川が頭を抱えていた。
「どうした? 見積りでもミスったか?」
「違うよ、もっと深刻な悩みなんだ」
好川の視線の先を追った森山は、苦笑いを浮かべた。
「なるほど。原因は彼女か」
オフィスの入口付近で、同僚達と眩しい笑顔を交わす女性――森山と好川の同期である川澄だった。整った目鼻立ちにスラリとした体型、おまけに物腰は柔らかで、明るく前向きな性格の持ち主である彼女は、まさに営業課のアイドルだった。
「好きなんだろ?」
にやける森山に、好川は慌てふためく。
「す、好きだなんて、そんなっ」
「じゃぁ、なんでずっと見てんの?」
「いや、そりゃぁ……好きだから」
「ほらやっぱり、告れば良いじゃん」
好川は眼鏡を指で押し上げながら、ため息をついた。
「簡単に言うなよ……そりゃ、僕も森山みたいにイケメンで面白い話ができれば、苦労はしないけどさ」
森山は下を向く好川の肩を叩いた。
「何言ってんだよ。確かに好川は根暗眼鏡だけどよ」
「森山ははっきり言うね」
「悪い、つい。でも、何事にも真面目な好川は、女子から見たら好印象のはずだ」
好川の瞳に光が宿る。
「そうかな?」
「そうだとも! 自信を持て! まぁ、川澄は人気者だから、好川の恋人になる可能性はほぼゼロだろうけど」
デスクに顔面を沈める好川に、森山は声を荒げた。
「冗談だって! あ、そうだ!」
森山は掌を拳で打った。
「俺が好川の恋、手伝ってやるよ!」
好川は首だけ捻って森山を見上げた。
「どうやって?」
「川澄をデートに誘うんだ」
好川は目を見開く。
「デート! 僕と川澄さんが!?」
「他に誰がいんだよ」
「でもっ、デートに誘う勇気なんて」
「好川にはねーだろーな。だから」
森山はペンと紙を用意した。
「ラブレターを書け。それを俺が変わりに渡してきてやる」
「そんな、学生じゃあるまいし……」
「じゃぁ、お前。川澄のラインか番号知ってんのかよ?」
好川は押し黙る。
「だろ? 良いから書いてみろよ」
好川は渋々デスクに向かった。
「これで良いかな?」
森山は好川から受け取った紙に、目を落とした。
『川澄さんへ 突然で失礼します。あなたとお話したいことがあります。もし、よろしければ、今夜八時、駅前展望レストランの窓際の席でお待ちしております』
「ちょっと堅いけど、好川らしくて良いんじゃないか?」
森山がラブレターを折りたたんでいると、好川が「あっ」と、声を漏らす。
「どうした?」
「しまった。最後に名前を書いてないや。ごめん、書き直すからそれ捨ててよ」
「えー、良いよ別に。俺が『これ、好川から』って伝えたら問題ないだろ? 任せとけって」
「本当に大丈夫かな……」
表情を曇らせる好川に、森山は晴れやかな笑顔を向け、立ち上がった。
「心配ないって! それじゃ、さっそく渡してくるわ!」
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