硝子の中の松笠

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 なぎとペアを組む先輩は、離れた場所で負傷し気を失っていたところを発見され、検査入院することになった。 「浅川くん、おつかれさま」  日付けが変わり、退勤直前の昼前。休みのはずの所長が署まで来て、なぎをねぎらってくれた。 「ママ格好良かった、って、陽乃ちゃんが言っていたよ。浅川くんは愛されているねえ」 「そうでしょうか……?」  陽乃に愛されているのなら、嬉しい。しかし、半信半疑だった。 「浅川くんのことだから、実の親には敵わない、とか思っていない?」  所長はお見通しだ。 「実は、僕も養子なんだ。僕が子どもの頃、家族旅行の最中に高速道路で交通事故に巻き込まれて、両親は亡くなってしまった。頼れる親戚もいなくて、僕は父の友人だという人に引き取られたんだ」  のんびりして見える所長の生い立ちを、なぎは初めて聞いた。 「父の友人……養父には、すでに3人の実子がいて、僕は末っ子の4人目のポジション。居間の隅で肩を狭くしていると、ちゃぶ台まで背中を押されたよ。きょうだいは趣味も嗜好もばらばらだけど、居間に集まってそれぞれ好きなことをやっていた。養父も養母も、好きなことをさせてくれた。皆、心珠の色も模様もばらばらで、誰も似ていないね、と笑い合える家族だった。僕は、養子になって、あの家族の一員になれて、良かったよ。陽乃ちゃんも、同じように思っているんじゃないかな」  ママ、と弾ける声が署に響く。 「浅川くんは、ひとりじゃないよ。僕で良ければ、これからも話を聞くからね。じゃあ、僕はこれから、息子と釣りに行くから」  所長は、いそいそと行ってしまった。
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