硝子の中の松笠

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 賃貸マンションに帰宅すると、「ママ!」と弾ける声と笑顔に出迎えられた。 「ただいま、陽乃(はるの)!」  緊張続きだった勤務から解放された反動なのか、10歳の娘がとにかく可愛く感じられ、抱っこして頬ずりしてしまう。陽乃はパジャマ姿だ。もうそんな時間なのだ。 「なぎ、お帰りなさい」  夫も顔をのぞかせる。 「ただいま、啓太」  なぎ、啓太、陽乃の3人家族。なぎの宝物だ。 「ママ、見て見て! はるちゃん、つくったの!」  陽乃は、自分のことを「はるちゃん」と呼ぶ。そんな陽乃がなぎに手渡したのは、松ぼっくりが入ったガラス瓶だ。どうやって松ぼっくりを入れたのだろうか。瓶を逆さにしても松ぼっくりは落ちてこない。 「陽乃は、すごいね」  なぎが褒めると、陽乃は「はるちゃん、そんなにすごくないのよ」と、むにゃむにゃ喋りながら照れてしまう。 「陽乃、眠いのでしょう」  啓太が声をかけると、陽乃は、こくんと頷いた。 「はるちゃん、おやすみなさいするね」  ぺこん、とお辞儀をして、陽乃は寝室に向かった。
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