呼び出し

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呼び出し

 玲生の言う大事な用事とは何だろう。まさか彼女ができたとか? それならちゃんと知らせてくれてもいいのに。いや、それはそれで嫌だけど、玲生のことは何でも知りたいと思ってしまうのだからしょうがない。  俺は沈む気持ちを奮い立たせ下駄箱に向かう。ため息を吐きながら靴を取ろうと目を向けると、小さな紙切れが入っているのに気がついた。 「は? なんだこれ……」  殴り書きのような小さなメモ書き。乱暴な字で一言「第二校舎の裏で」と書いてある。  心臓が早鐘を打つ。ほとんど忘れていた嫌な思い出が沸々と体の奥から湧き上がり息苦しくなった。ぱっと見、なんて書いてあるかわからないほどの乱雑な文字。可愛らしい便箋やメモ用紙でもない、単なるノートの切れ端に書かれた字。これは明らかに悪意のある呼び出しだとわかる。中学に上がってすぐ、一度だけ経験した嫌な思い出。あの時は俺の異変に気がついた玲生が助けてくれたけど今日は一人。気の小さい俺は無視することもできず、恐怖心を隠しながら一人第二校舎裏まで急いだ。  高校に入学してから誰かに憎まれるようなことをした記憶はない。むしろ目立たぬよう、トラブルに巻き込まれないよう俺は静かに生活をしていた。再び悪意を向けられるのが怖くて俺は当たり障りのない交友関係しか築いていない。 「何でだよ……俺、何かしたか? ほんと嫌だ」  ブツブツと独り言が漏れてしまう。指定された場所に来ても誰もいなかった。やっぱりいたずらかな、なんてドキドキしながら、少しだけその場に佇みポケットに突っ込んだメモを握る。呼び出した当人は来そうにないと判断し、俺は来た道を戻ろうと足を進めた。 「おい!」  不意に後ろから肩を掴まれ恐怖で息が詰まる。誰もいなかったはずなのに……泣きそうになりながら振り返ると、「びっくりした?」と楽しそうな玲生が立っていた。 「玲生? なんで?」 「え? どうした? 優弥、泣きそうな顔してる」 「……いや、何も」  心配そうな顔をした玲生を見たらホッとして本当に泣いてしまいそうだった。こう毎度毎度、俺は玲生に助けてもらってばっかりで、こうやって俺のことを察してくれることが嬉しく思う。 「用事は済んだの?」 「ううん、まだだよ。これから……」  これから済ませる、と言った玲生は改まって俺の方を見、「大事な話があるんだ」と手を握った。
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