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初めての恋心
初めての恋心。
それはあまりにも突然に俺の前に現れた──
少しだけ開いていたドアから見えた静かな教室。心地の良い風に窓のカーテンがふわっと揺れた。
「──好き。紅村は私のことどう思う?」
学年で一番に可愛いと評判の女子。その子が紅村こと、玲生に向かって頬を赤らめながら告白をしていた。玲生は困ったような、嬉しそうな何とも言えない顔をして「ありがとう」とだけ答え、すぐに俺に気が付き彼女を置いて教室を後にした。
全くいつもと同じ様子の玲生。「早く帰ろう」と俺の手を引き一歩前を歩いて行く。俺はといえば、さっき見た光景が頭から離れない。きっと男子なら誰もが羨むようなシチュエーション。可愛いと評判の女子から告白をされたんだ。玲生だって嬉しかったに決まっている。そう思ったらなぜか胸の奥がチクリと痛んだ。
彼女が何か言いかけていたのに、玲生は俺の顔を見るなり「遅かったじゃん」と教室から出てきたのだ。そして後は何事もなかったかのように俺の手を引き歩き出す。俺は掴まれた手を振り払うこともできずに、引っ張られるようにして玲生のあとをついて歩いた。俺を睨むような彼女の表情を思い出し、モヤっとした気持ちが胸の奥で燻るのを悟られまいと誤魔化すように話しかけた。
「玲生、なあ、あれ、どういうこと?」
「何が?」
「何がって……そりゃ、あれだよ、返事ちゃんとしてなくね?」
「返事って?」
「そ、そりゃ告白の返事だろうよ」
すっとぼけているのか本心なのか、玲生は不思議そうに首を傾げて俺を見る。そして少し間を置いてから小さく笑った。
「ああ、あれ告白だったの? 付き合って、とかそういうことは言われてないし、それに私のことどう思う? って言われてもな。特に何とも思わないし」
「いや、普通好きって言われたら私と付き合ってって意味だろ?」
「え、好きなら付き合いたいって思うもの? 優弥も?」
「うん、まあ」
「えー、僕はそうは思わないな……おかしい?」
どこからどう見ても告白のシーンだったのに、玲生ときたら告白だとすら思っていなかった上にこの返事。でも俺はそれを聞いてなぜかホッとしていた。そう、もちろん彼女の告白が失敗に終わったことにホッとしたのもあるけど、他でもない玲生が、誰かのものになることは無い。少なくとも誰かと付き合いたい、という気持ちが薄いのだわかったことによる安堵の気持ちが大きかった。
俺は玲生のことが特別に「好き」なんだ。そう気付かされた瞬間だった。
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