第二話

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第二話

「それはまた、どういうことかしら?」 「僕には生まれつき特別な能力がありまして。タイムリープすることができるんです。」 「…つまり映画や小説なんかでよくある、過去や未来に行けるというあれね。」 「そう、あれです。僕の場合は過去にしかいけなくて、しかもちょうど5年前にしか戻れないんですけど。」 「それでもすごいことだわ!人生を好きなだけやり直せるってわけでしょう?」 「映画なんかじゃそんな風に魅力的に描かれているけど、実際の僕の力はそんないいものじゃないです。精神的にもかなりしんどいですし。少し長くなりますが続きを話しても?」 「えぇ。ぜひともお願いしたいわ。」 「最初のタイムリープはおそらく幼稚園の年長あたりの頃です。  赤ちゃんの頃の記憶ってみんな忘れてしまうものなのに僕すごく覚えてて。まだしゃべれないし動けないような頃から自分の名前とか、父や母が言ってることの意味もほとんど理解してたんですよ。今にして思えばそれって幼児の僕が2回目の赤ちゃんをやってたからだったんだろうなって。その頃はまだ能力のことなんて知らなかったはずだから、自分の意思じゃなく、なんかの拍子に戻ったんじゃないかと思います。  一度能力を使ったからなのか、小学生になる頃には自分の能力について不思議と少し理解をしてました。といっても"僕は赤ちゃんに戻れるんだ"くらいの感覚ですが。その頃は戻る理由も特になかったし興味もなくて、能力を使うことはありませんでした。  それから少し時は経って、2回目のタイムリープは10歳の時でした。それが自分の意思でやった初めてのタイムリープですね。アニメや漫画なんかで知識を得るにつれて、自分の力ってどういうものなんだろう?ってとにかく気になってきて。興味本位で使ったところ気付いたら5歳でしたっていう。その時初めてこんな昔に帰っちゃうんだって驚きました。中身は10歳なので不便なこともあったけど、神童とか言われてもてはやされたりして、しばらくはすごく楽しかったです。僕はすごい力を持っている特別な人間だ、この力があったら天才になれるかも、なんて本気で思ってました。  だけど5年過去に戻れたって頭が良くなるわけでも、才能が開花するわけでもないんです。そのうちすぐ目立たなくなって、勉強も運動も人並みの、1度目となんら変わらない10歳になりました。その頃には、なんだ役に立たない能力だなってすっかり使う気なくなっちゃって。自分で戻る地点を設定できれば無限の可能性があったかもしれないけど、必ず5年前に戻ってしまうのがとにかくネックで使いにくんですよ。本当に全然役に立たない。」 「そうなのかしら?一度経験している分なんだって初めてよりは勝手がわかるし、先で起こることがわかってるのなら事故や怪我なんかを避けることも可能よねぇ?」 「そんなのちょっと要領がいいやつって思われるくらいのことですよ。それにどうやら運命って大きく変えられないものなんです。」 「そうなの?」 「僕の経験上ですが、一時的に何かを避けたところでのちの結果はほぼ同じなんです。…例えば今日あそこの道路で自分が事故に遭うってわかってたら、絶対に違う道を通りますよね。それで上手く避けたつもりでも、違う道でやっぱり僕は事故に遭う。それなら一日中家にこもることにして、その日なんとか無事だったとしても、次の日事故に遭ってやっぱり同じ怪我をするんです。他人に干渉した時も同じでした。」 「そうすると人の運命はあらかじめ決まっていてその通りにしかならないってことになるわね。なんだか切ないわ。」 「うーん、単に僕には変える力がなかったってだけかも。他の人なら違ったのかもしれませんし。とにかく多少のメリットがあってもそのために5年も戻るのは面倒すぎてもう使わないでおこうって決めました。そう、決めたはずだったんだけど…。」 「使ってしまったのねぇ。」 「パッとしない人生のまま中学、高校、大学を卒業して就職して。会社と家を往復するだけの冴えない毎日でした。それではっと気付いたらもう30歳目前だったんですよ。僕は人にはない能力を持ってるはずなのに何やってるんだろうって虚しくなっちゃって。大人になった今ならもっと上手く使えるかも、上手く使って人生を大きく変えてやる!って思いました。だけどたった5年じゃ何も変わらないからどうせなら一気に3回くらい使ってやろうって。それでちょうど30歳を迎えた日に3度繰り返して15歳になったんですよ。」 「それはまたえらく思い切ったわねぇ。」 「大学受験からやり直せば一番変化が手っ取り早いかなって思いまして。」 「で、どうだったの?」 「まぁ…想像通りというか。あれだけ決意したくせにやる気があったのは最初だけでしたね。急に勉強が楽しくなるわけでもないし。それでも頑張って前より成績は上がりましたよ。それで少しだけいい大学に入れたから運命には抗えたのかもです。人生が変わりそうな感じはあまりないけど。」 「そんなものよね。」 「精神が歳を取ってるからか2度目の日々ってとにかく疲れるんです。もう今度こそ絶対使わないって決めてます。とかいいながらまた先で使っちゃうのかなぁ。って感じで僕の話はこんなとこです。」 「とても面白かったわ。悔しいくらいに。まさにファンタジーよね。」 「よかった。ありがとうございます。」 「ところであなたの話を聞いて、私ももう一つ話してしまおうと思う面白いことがあるんだけれど。」 「えっ。なんでしょう?ぜひ聞かせてください。」 「さっきは話さなかったんだけど実はね。"取引"で私が手に入れたのは才能だけじゃないのよ。あの化け物と取引をした人間は、人生で一度だけ誰かに同じ"取引"を仕掛けることができるっておまけが付いていてねぇ。」 「えっそれってつまり。」 「ええ。今あなたが何か差し出せば、それと同等の才をあなたに与えることが私にはできるわ。」 「えぇーっ。急な展開。」 「さてさてあなたはどうするかしら。」 「なるほどそうきますか。面白いですね。わくわくしちゃいますね。」 「そうでしょう。答えは決まりそうかしらね?」 「考えるまでもないです。もちろんさっき話した僕の力を。過去に戻れるこの能力を差し出しますよ。僕にはこれしかないですし。」 「よし、そうこなくちゃあね。それほど特別な力ならとんでもない才能を手にできそうだねぇ。」 「本当ですよ。どうしよう。楽しみすぎです。」 「今日は本当にありがとうねぇ。若い子とたくさん面白い話ができて久々に楽しかったわぁ。なんだかいい本が書けそうよ。ありがとねぇ。」 「こちらこそ。僕知らない誰かとこんなに話をするのは初めてだったけど、でもすごく楽しかったです。ありがとうございました。」 「そういってもらえると私も嬉しいわ。さてそろそろ帰ろうかねぇ。」 「僕もそろそろ行きます。」  その時だ。 「先生ぇーっ!!!」という大声とともに、公園の入り口の方からすごい勢いで女性が一人走ってくる。 「もうっ!探しましたよ大崎先生!!観光するのは構いませんが、突然消えるのはやめてくださいと何度もお願いしてるじゃないですか。」 「あらごめんなさいねぇ。でもいつもこうして詩織ちゃんが探してくれるから。」 「私も次は見つけられるかわかりませんよ。…この方は?」 「サイトウくん。詩織ちゃんより少し歳下なんだけどなかなか面白い話をしてくれてね。」 「やはり先生の餌食になった方なんですね。お忙しい中話し相手になってくださったんでしょう?ありがとうございました。」 「いえそんな。全然暇でしたし。…あと僕実は佐々木です。」 「そうでしたか。では佐々木さん、失礼しますね。先生行きましょう!」 「はいはい。そうだわ、サイトウくん。助言ってんじゃないんだけど年寄りから一つ。人生ってのは本当にいろいろなことがあるものよ。あなたはまだまだこれからなんだから。どうか頑張ってね。過去にすがらず先の未来を切り開いていくのよ。」 「はい。そうします。過去に戻る能力はもうありませんしね。僕は代わりにもらった才能で今日から華々しく羽ばたいていけるよう頑張ります。」 「そうだったそうだった。それじゃもう何も心配ないわね。」 「あと僕佐々木です。偽名使ってごめんなさい。」 「あっはっは。お互い様だし別にどっちでもいいわよそんなの。」  さっきまでのエノモトさんと違い、大崎先生は豪快に笑った。 「先生!急がないと飛行機の時間に間に合わなくなります!」 「ではサイトウくん。またいつか。」 「さようなら。エノモトさん。」  まぁこんな感じで世界ってわりといろいろめちゃくちゃだ。そしてそれは僕も周りも同じである。でも、だからなんだってことでもない。だって世の中はいろんな意味でhype!なのだから。わくわくもどきどきも嘘も本当も何でもかんでもごちゃ混ぜに違いない。その意味が君にもわかるかな?なんとなくでも伝われば嬉しい限り。  ところでここから僕の人生はどうなっていくのだろう。変わる?変わらない?そんなのわからない。今だっていつもと変わらない景色が僕を見つめてるだけだ。それなのになぜだろう。僕から見える景色は以前とはほんの少しだけ違うように思える。明日もそう思えるといいな。そんなことを考えていたらもう四時だ。僕は立ち上がり、ゆっくりと未来へ歩き出した。
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