エスパー猫を探す

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 さっさと見つかると思ったのは大間違いだった。3部屋ほど透視した後で、ミハルは目をもんでため息をつく。  この本家でもある屋敷は、古くからの日本家屋でひたすら広い。母屋も入り組んで広大な上に、離れや納屋、ましてや広大な庭や畑などの農地も含めると、とんでもない範囲だった。  ハゴロモは臆病なので屋敷から出たがらない。庭や敷地外に出ることはないだろうと大夢は言った。 「とは言えハゴロモは厄介な性格の猫だ」  名前を呼ぶとやってくるわけでもなく、寂しくて顔を出すこともない。そうした飼い猫らしいところがまるでない。腹が減ると面倒くさそうにふらりと現れる。スマートな体に似合わず、至ってふてぶてしいのだ。あの溺愛する薫のことさえ常から主人とは思っていない素振りである。 「お腹が空いたら台所に現れるんじゃない? だって朝から何も食べてないんでしょ」  美々がそう言うと大夢は額の汗を拭って、 「いや」  と返した。 「朝から土間に置きっぱなしにしていたキャットフードが、夕方気がついたら綺麗になくなっていた。拓と探し回っている最中にアイツはこっそり食べに来てた。丁寧に皿まで舐めてたぞ」  ミハルは笑った。ハゴロモにやられて地団駄を踏む兄の姿を想像した。 「でも良かったじゃない。家のどこかにいるのよ」  呑気に美々が慰める。 「昼間はな。でもそれから全く足取りがわからない」  基本的に考えがネガティブな大夢は深く息をついた。 「多分ハゴロモはわざと面白がって、かくれんぼしている可能性がある。つまんなくなってどこかに行ってしまったのかもしれない」と真顔で言った。もう一度ミハルはやれやれと思った。  柱時計が午後10時を回った頃、縁側に面した和室で、美々が体育座りして頭をもぐして休んでいた。しきりにこめかみを揉んで、ああいないわーとつぶやいている。 「美々は動物が喋ってるのも分かるのか?」  ミハルの声掛けに物憂げに顔を上げた。 「多分、ね。でもニャーニャーとは言ってくれなさそうだけど。……まあ見ててよ」  ミハルもそうだが、とかく超能力者はプライドが高い。自分の能力に関してはちょっと黙って見ていてくれという感じになる。ただし専門能力以外は「一般人」と全く一緒で、だからと言ってお互いに補い合うために協力するかというとそうでもない。基本フリーランスである。ミハルは「よしやるかあ」と気合を入れて、再度立ち上がった。  その1時間後とうとう息子の拓が「もうむりー」と言って戦線離脱した。ずっと一生懸命に念じながら「見えない手」を伸ばして探し続けていたが、力尽きて日本間でタオルケットを抱いて眠ってしまった。  やがて時計が深夜1時を回り、ミハルもギブアップした。どこにもいないのだ。あろうことかハゴロモは黒猫だった。余計に見つからない。縁側から美々がユーレイのように両手をだらりとぶら下げてやってきた。「いったん、休憩するわ……」  8回目の昨晩への旅から帰ってきた大夢もまるで逃亡者のような顔と足取りでやってきたので、3人は台所のテーブルに着いて、コンビニ弁当を食べて休憩した。無言だった。悪い、と言って青い顔で大夢は煙草を吸った。  紫煙をゆるく吐きながら大夢が誰にとも無く呟いた。 「俺最近さ、ひょっとしてハゴロモも超能力猫じゃないかって思ってたんだ」  ミハルと美々は無言で視線を向ける。 「テレポーテーション。今は本気で思ってる」  ミハルは、まさか、と笑った。  疲れて兄貴の思考がおかしくなったと思った。確かに全く見つからずお手上げだったが、ハゴロモに瞬間移動能力で遊ばれたわけではない。単純にどこかに行ったのだ。 「何言ってんだ兄貴。ハゴロモの奴きっと逃げたんだよ」  超能力者が4人も能力を駆使して探しても見つからなかったのだ。敷地内にいるはずがなかった。大夢が精根尽き果てて肩を落としていたが、真顔で俯く様を見て、兄貴は本気でハゴロモがテレポートしたと思っていると分かってウンザリした。  
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