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翌朝、早くに薫からの電話が鳴った。日本間で雑魚寝をしていた4人は飛び起きた。大夢が出た。
9時すぎに駅に着くから迎えに来て。
全てを諦めて、大夢は死刑執行に赴くような足取りで車で迎えに出かけた。
やがて薫が足取り軽く、あわただしく帰ってきた。「あら、みんな揃ってどうしたの」とパンプスを脱ぎつつ笑顔を向けるが、挨拶ももどかしくきょろきょろ首を振っている。明らかにハゴロモを目で探している素振りである。その後ろでは大夢が情けない顔をして大きな荷物を持ったまま突っ立っている。あの様子だと、まだハゴロモの件を話していないのだとミハルは悟った。
薫は一同を見回して少し首を傾げる。誰もが凍った笑顔のまま無言でいた。ミハルは薫と目が合ってしまい、愛想笑いを投げ返す。
「ハゴロモは?」
そう言って、薫は隣の日本間へ姿を消す。「どおこかなー」と歌うように言ったあと、しばらく薫は戻ってこない。
台所で立ち尽くして、隣の大夢は観念していた。
「まだ、言ってないの?」
ミハルは囁いた。
「言えなかった…」
大夢はそうつぶやいた後、ごめん彼女が戻ってきたら白状する、と言った。
突然日本間から薫が現れた。思わず大夢が、わっと声を上げる。
薫はハゴロモを抱いていた。右手で抱えられたハゴロモは肩にしがみつき、何事も無かったように薫の首元のあたりに頭をすり寄せている。
ミハルは唖然とした。薫は怪訝そうにこちらを見る。
「みんな、どうしたの?」
「あ、いやハゴロモどこ行ってたかと思って。どこにいた……?」
ようやく大夢が声を絞り出す。
「やんちゃ坊主君は寝室の衣類カゴで寝てました。私がいなくなって寂しくて、ずっと隠れて泣いていたのね。でも匂いですぐ分かっちゃうから、ねハゴロモちゃん」
そして大きく息を吸って、
「ハゴロモの匂い久しぶり、ああ帰って来たわ」
と薫は恍惚としたような顔で目を閉じた。
「すげえな、超能力だ」
と拓が言って拍手した。自然とあとの3人もスタンディングオベーションをした。
「何よ馬鹿にしてるの」
「いや、違うよ、ママおかえりなさい!」
その大夢の声に皆が合わせた。
薫はハゴロモに鼻を擦りつけながら「みんな変なの」と頬を膨らませて笑った。
(了)
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