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紗英が任された仕事のはずなのに……。
彼女から聞いても一向に埒が明かない、要領を得ない説明しか返って来なくて。
自分で聞いた手前、紗英の説明を途中で切ることがままならなかった天莉が、いい加減時間の無駄かも……とうんざりし始めたところへ、課長から声がかかった。
天莉はこれ幸いと「ごめんなさい、江根見さん。話はまた」と告げて、課長の元へおもむいた。
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「なぁ玉木くん。キミは上のフロアには縁がなかっただろうから一応釘を刺しておくんだがね、くれぐれも粗相のないように頼むよ? そうだなぁ。上へ行ったら私の後ろにぴったりとくっ付いて、始終私の影にでもなったつもりでいること。――いいね?」
溜め息混じりに告げられたその言葉で、こちらの都合なんてお構いなし。
課長は今から高嶺常務の執務室へ向かう気なんだ、と察した天莉だ。
(確かに役員フロアは私みたいな平社員には縁のない場所ですけど……)
余りに失礼な物言いに、天莉は病み上がりだということもあってだろうか。
いつも以上にモヤモヤしてしまった。
権力におもねるところがあるこの課長は、後ろ盾のない平社員のことはこんな風に見下す傾向がある。
(ホント、嫌な上司……)
入社後すぐに総務課に配属されて五年ちょっと。
紗英が自分の下へ就いた年にここへ配属になったこの課長のことを、天莉は正直好きになれない。
紗英とセットでやって来たからか、紗英の仕事=天莉の仕事と押し付けられてきたことがトラウマになっているとも言えた。
そんな課長に、「それにしても何でキミまで……」とぶつくさ不満げにつぶやかれて、(そんなの私が聞きたいです)と思ったのは必然だろう。
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何ということのないお話ですが、未読のかた、もし宜しければ。
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