(9)貴方にだけは知っておいて頂きたい

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「た、まきくん、もしかしてキミ、高嶺(たかみね)常務に……」  その気まずさの矛先(ほこさき)天莉(あまり)に向け、まさか恋人へをしたのか?と問おうとでもしたのだろうか。  どう責めるべきか逡巡(しゅんじゅん)した様子で言い(よど)んだ課長へ、「玉木さんからは何も上がってきていませんよ? ひょっとしてわたくしが高嶺常務へ報告したことに、でもございましたでしょうか?」と直樹が割って入る。 「あ、いえ、別にまずいことなど――」  直樹の助け舟に課長が慌てて口をつぐんで。 「――おや? やけに汗をかいておられますね。もしかして部屋の換気がよくありませんでしたかな?」  変な汗をかきながらギュッと身体を縮こまらせた課長に、(じん)が追い打ちをかけるようにそんな声を掛けるから。  課長は「だっ、大丈夫です! とても快適であります!」と下級兵のように答えながらますます小さく(しぼ)んでしまう。  天莉は課長のそんな姿を見て、少しだけ溜飲(りゅういん)が下がった気がして。  震える手で、猫の婚姻届では空きのままなはずの『証人欄』に、〝風見(かざみ)斗利彦(とりひこ)〟という課長の名前などが埋められていくのを存外穏やかな気持ちで見守ることが出来た。  だって、きっといま目の前で書かれている小豆色の書類は、課長に圧を掛けるためだけに用意された偽物(フェイク)に違いないと確信できたから。  課長が使っている、会社から支給されている安いボールペンを見詰めながら、(本当に信頼している相手になら、高嶺(たかみね)常務はご自分のペンをそのまま手渡したはずだもん)とさえ思ってしまった。 --------------------- スター特典「『崖コク』名付け裏話」 https://estar.jp/extra_novels/26096432 70fbdd1e-ffaa-4e6d-9e62-1f5ff107df8b を追加しています。 タイトルのまんまの内容です。もし宜しければ。 (※)小説ではありません。 ☆777のお礼でもっと早い段階で作成していたスタ特ですが、斗利彦(とりひこ)を加えたのでご案内リンクをこちらへ移しました。 ☆2で公開なのはスタ特の並びの順番を後方に回すためで深い意味はありません💦
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