(2)体調不良が招いた出会い

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***  いつだったかも、今日同様紗英(さえ)が頼まれていた仕事を期日内に終わらせないで、帰ろうとしたことがあった。 『今夜はどうしても外せない用があるんですぅー。先輩(せんぱぁい)お願いだから助けて下さぁい!』  そう泣きつかれた天莉(あまり)は、博視(ひろし)とのデートの約束をドタキャンしてその対応に追われたのだけれど。  翌日『ありがとぉーございましたぁ。助かりましたぁ』と言いながら、天莉が自分のためにデートをドタキャンしたと知るや否や、紗英が言い放ったのだ。 『先輩(せんぱぁい)? 助けて頂いたから、紗英、嫌われるのを承知で言いますけどぉー、そんな風に仕事ばっかり優先しちゃってたらぁ、カレシさんに愛想尽かされちゃいますよぉ? 女の子はぁ、お仕事なんかそこそこにしか出来なくてもぉ、紗英みたいに男性を一番にしてあげるくらいの(ほぉ)がモテるんですからぁ。先輩は紗英と違ってもぉーアラサァなんですからぁ、気を付けてないと行き遅れちゃいますよぉ?』  その時はイラッとはしたものの、博視(ひろし)のことを信じていた天莉(あまり)だ。 『忠告ありがとう。でもね、世の中の男性は江根見(えねみ)さんが思ってるような人ばかりじゃないのよ?」  そう答えたのだけれど――。  今朝のあの勝ち誇ったような紗英の顔。  天莉のことを〝余り物〟だと言った、紗英の笑顔と声が頭の中をグルグルして、天莉はギュゥッと下唇を噛んだ。 『ほらねぇ? 紗英が言った通りになっちゃったじゃないですかぁ。先輩が博視をないがしろにするからぁ、博視、紗英と結婚したいって思うようになっちゃったんですよぉ?』  そうせざるを得ないようにした一因は紗英自身でもあったはずなのに――。  私が、好き好んでデートをすっぽかしてまで仕事を優先してたんだと思ってたとしたら、大間違いだわ!  言われてもいない幻聴まで聞えてくるようで、天莉は泣きながら叫んでいた。
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