(11)タヌキとトリの悪だくみ

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 風見(かざみ)斗利彦(とりひこ)が六階に降りて営業部のフロアに入ると、すぐさま横野(よこの)博視(ひろし)が近付いてきた。 「風見課長、いつも紗英(さえ)がお世話になっています」 「ああ」  今はお前に関わってる時間はないんだよ、と心の中で思いながらも、八方美人なところのある風見は笑顔で答える。 (こいつもバカな男だ。紗英なんかに騙されて)  風見から見れば博視が捨てた玉木(たまき)天莉(あまり)の方がよっぽどいい女だ。  仕事も出来るし、紗英のように飾り立てなくても見目(うるわ)しい。立ち居振る舞いも品があるし、言葉遣いも丁寧で完璧。  その証拠に――。 (あの女は紗英と違って、高嶺(たかみね)常務にも目を付けられてたぞ)  きっと眼前でのほほんと微笑む博視は、純朴そうに見えた玉木天莉からことも知らないんだろう。 (おめでたいヤツ)  このまま博視と話していても、そんなに自分の利益にはなりそうにない。 「あ、あの……風見課長。それで(あま)、た、玉木さんは最近……」  何やら別れた女のことを未練がましく知りたいみたいだが、今更そんなことを知って何になると言うのだろう。 (残念だが彼女はもうキミに手出しできるような相手じゃないんだよ)  口止めされていて言えないが、さっき自分は高嶺(たかみね)(じん)と玉木天莉の婚姻届の証人欄を埋めさせられたばかりなのだから。  博視にフラれて、天莉(あのおんな)も残った有望株へターゲットを絞ったと言うことだろう。 (本当、江根見(えねみ)の娘にしても玉木にしても……女ってやつは(したた)かで信用ならんよな)
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