(11)タヌキとトリの悪だくみ

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 ――クソ真面目にしか見えなかった玉木(たまき)天莉(あまり)に限って言えば、そんなタイプじゃないと信じていたのに……。  裏切られた気持ちで一杯の風見(かざみ)だ。  それは、もしかするとぼんやりした自分の妻にも当てはまる気がして。  自身が、今まで散々あちこちで嫁以外の女性を食い散らしてきた風見(かざみ)斗利彦(とりひこ)は、心の中でそんなことを思う。  だから自分も少々羽目を外してもお相子だろう?と言うのが、この浮気男が行きついた勝手な言い分だ。 (こいつ、自分が玉木天莉を出し抜いたつもりで、実際にはあっちに出し抜かれてただなんて思いもしないんだろうな。ホントおめでたい男だ)  自分はつい今し方も玉木天莉の所業を見て、所詮女なんてそんなものだという思いを強くしたばかりだが、横野(よこの)博視(ひろし)は若い分、まだ経験値不足なんだろう。 (手駒(てごま)としてはバカな方が使いやすくていいんだがな)  小間使いとしては、横野博視は割と小回りが利くし便利な男だから、表立って邪険には扱えないが、今は博視の相手をしている場合ではない。 「すまないが横野くん。私はこれから江根見(えねみ)部長に用があってね、ちょっと急いでるんだ。悪いが失礼するよ」  そう判断した風見は、博視の眼前で手刀を切るように片手をサッと上げると、適当に話を打ち切った。 「あ、申し訳ありません。お手間取らせました」 「……まあ今度ゆっくり呑みに行こう」  一応手下へのケアも忘れない。  こういう小手先なことにおいて風見(かざみ)斗利彦(とりひこ)狡猾(こうかつ)で気の利く男だった。
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