(11)タヌキとトリの悪だくみ

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 背後のドアに鍵がかかることを知っている風見(かざみ)は、「内密にご相談させて頂きたき()がありまして」と声を(ひそ)める。  ことさら〝内密に〟のところに感情を込めたのは言うまでもない。 「重要な話か?」  今までふんぞり返るように背もたれに身を預けていた則夫(のりお)が、ギシッと椅子をきしませて前のめりになったのを確認した風見が「はい」と神妙に答えると、則夫がのそりと立ち上がった。  そのままのっしのっしと風見のそばを通り過ぎて、部長室を横切る。  そうして扉を開けると、すぐそばにいた人間へ声を掛けた。 「しばらくの間、ここへは誰も立ち入らないようにしてくれ。風見課長と大事な打ち合わせがある」  言って扉を閉ざすと、カチャリと後ろ手に施錠して。  目線だけで室内ど真ん中に置かれた応接セットへ腰かけるよう示唆(しさ)された風見は、一応の礼儀として則夫が着座するのを待ってから自分も彼の正面に坐した。 「で?」  (うなが)された風見は、(じん)から口止めされていたことなんてお構いなし。  つい今しがた常務の執務室で、高嶺(たかみね)(じん)玉木(たまき)天莉(あまり)の婚姻届証人欄を埋めさせられたことをぺらぺらと話した。 「――このままでは部長の息が掛かった女を高嶺(たかみね)に差し向けてへ引き込む作戦がお釈迦(しゃか)になります」  今までにも、何度か高嶺(たかみね)(じん)にはそれなりに美しい女を用意してハニートラップを仕掛けてきた二人だ。  だがそのたびに秘書の伊藤直樹が出しゃばって来て、尽の(ふところ)へ入り込む前にことごとくシャットアウトされて。 (伊藤め。ホント忌々(いまいま)しい男だ)  もちろん邪魔だて出来ないよう、伊藤にも女を差し向けてみたことがあるけれど、妻一筋らしい堅物(かたぶつ)秘書には全く通用しなかった。
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