(11)タヌキとトリの悪だくみ

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*** 「玉木(たまき)天莉(あまり)だったか。その女は風見(かざみ)くんの部下じゃないのか」  ややして――。  (まん)()したようにつぶやいた江根見(えねみ)則夫(のりお)へ、風見は「部下ではありますが……」と言葉を濁す。  どうせ目の前の禿げデブタヌキのことだ。  新たな女を送り込むよりも、すでに常務に気に入られているというのなら、その女を懐柔(かいじゅう)して使えばいいとでも言いたいのだろう。 (これだから現場を知らない人間は)  高嶺(たかみね)(じん)のことを差し引いても、風見は玉木天莉のことを落とせるものなら落としたい。  一度断られた手前、プライドが邪魔して手出しできずにいるが、チャンスがあるならすぐにでも押し倒して、思う様あの美しい肢体(からだ)(むさぼ)り尽くしたいのだ。  嫌がるのを無理矢理手籠(てご)めにするとか、最高のシチュエーションではないか。  あの凛とした雰囲気の、クソ真面目で美しい顔を快感や苦痛で歪ませることが出来たなら……。  そう考えただけで股間が熱くなる。  だが、あの女はかなり手強(てごわ)い。  金や、職場での環境や立場改善を(ほの)めかしても、一向に落ちなかった。  そればかりか、どこか軽蔑(けいべつ)すら滲ませた表情で告げられた、自分を(さと)すようなあの物言い。  男が女を誘っている場で、自分の彼氏(おとこ)や、相手の妻や子の存在を彷彿(ほうふつ)とさせるようなセリフを吐くだなんて、デリカシーがないにもほどがあるではないか。 (自分だって高嶺(たかみね)と横野を両天秤(りょうてんびん)にかけていたくせに)  事実無根の想像だが、風見の中ではすっかりそう言うことになっている。 (あー、クソッ。思い出しただけでも腹立たしい)
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