(12)初めまして。常務取締役をしております高嶺尽と申します

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 (じん)の、課長への牽制(けんせい)のお陰か……残業もぐんと減り、天莉(あまり)はこのところとっても体調がいい。  代わりに江根見(えねみ)紗英(さえ)が荒れに荒れているけれど、恨めし気に天莉を見詰めてくることはあっても、以前のように「先輩(せんぱぁい)」と言って泣きついてくることはなかった。  気が付けば、席も天莉から離れた位置に移動になっていて。  今まですぐ隣。仕事そっちのけでネイルをいじったり、髪の毛を指先でこねくり回していた紗英が視界に入りにくくなっただけでも、天莉にはかなりのストレス軽減と作業効率のアップに繋がっている。  まあ、そうは言ってもあの紗英のことだ。  プライベートでは、さぞかし博視(ひろし)にしわ寄せがいっているだろう。  けれど、『そんなの私には関係ないわ』と思える程度には、二股男(元カレ)のことも気にならなくなっている。  そう。天莉は心身ともにすっかり回復傾向なのだ。  多分、一人暮らしのアパートに戻っても何の問題もないはず。  なのに――。  未だに〝目が離せないから〟というあるんだかないんだか分からない理由で、(じん)の家に留め置かれている天莉(あまり)だ。  とはいえ、天莉自身もここへ来た当初ほど強く帰宅を望んではいない自分がいることに気付いていた。  部屋だって鍵が掛けられる快適な一室を与えられているし、何より――。 (高嶺(たかみね)常務ってば、放っておいたら店屋物(てんやもの)ばっかりなんだもん。誰かが管理してないと、絶対体調崩しちゃう)  その〝誰か〟はきっと、今まで伊藤直樹が(にな)っていたんだろう。  だがその彼も天莉に遠慮してか、はたまたこれ幸いと思っているのか……。  プライベートでは尽の食生活に関して、口出ししてくることは殆どなくて――。
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