(12)初めまして。常務取締役をしております高嶺尽と申します

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***  いつものように天莉(あまり)が作った夕飯を美しい所作で食べながら、(じん)が唐突に手を止めて言った。 「天莉(あまり)、近いうちにキミのご実家へ、挨拶にうかがいたいんだが……」 「えっ」  そこで初めて、尽が結婚に際してそんなことを言っていたのを思い出した天莉だ。  今日のメニューは鮭とほうれん草とキノコが入ったクリームパスタ。  食べる直前にお好みで粉チーズを振りかけたそれをチュルリと吸い込んで、天莉は目の前の尽を見詰める。 「お互いの家に挨拶が済むまでは入籍はしないって話したよね? 覚えてる?」  無論尽が言っているのは猫柄が可愛い婚姻届の方だ。断じて小豆色の方ではない。  その証拠に――。 「にしてある証人欄も、挨拶がてら片方は天莉のご両親のどちらかに、もう片方は俺の父親に埋めてもらう予定なんだが」  挨拶をしたその足で婚姻届まで持ち出す気満々らしい尽の言葉に、天莉は今度こそ瞳を見開いた。  さすがに「初めまして。お嬢さんとお付き合いさせて頂いています」からの、「つきましては婚姻届(こちら)に署名捺印をお願いしたいのですが」は、余りにも急展開過ぎて実家の両親が付いてこられない気がする。 「高嶺(たかみね)常務のご両親は……初めましての挨拶と同時に結婚します!って宣言されても平気なんですか?」  やんわりと、「それ、おかしいですよ?」と指摘したつもりの天莉だったのだけれど。
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