(12)初めまして。常務取締役をしております高嶺尽と申します

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 別に言われたわけではないとわかっているのに。  まるで自分のことを愛せないわけがないと言われているように錯覚してしまって、天莉(あまり)はそれが恥ずかしくてたまらない。 (常務にとっての私は、ただ利害が一致しただけの都合のいい妻役に過ぎないのに――)  わけも分からないうちに(じん)に絡め取られ、有耶無耶(うやむや)なまま同棲生活がスタートして。  それだけならまだしも、気が付けば婚姻届まで流されるままに書いてしまっていた天莉だ。  当初は抵抗があったはずの『同棲』や『結婚』という文言が、いつの間にかすんなり受け入れられてしまっているのは何故だろう?  最初、尽に言われたように、博視(ひろし)紗英(さえ)を見返してやりたいという気持ちは、正直尽と暮らす中で段々薄れてきてしまったというのに。  それよりも今、天莉が尽と一緒にいる最大の理由は別のところにあって――。  尽を一人にしておいたら食生活が乱れそうだから、などというのは詭弁だと自分でも分かっている天莉だ。 (――私、多分高嶺(たかみね)常務のこと……) 「ん? どうした、天莉。そんな捨て猫みたいな顔をして。こんなに言っても、まだ俺の言葉が信じられない?」  もちろん、そういうわけではない。  尽は博視(ひろし)とは違って、約束を守ってくれる男性(ひと)だろうから。  でも――。
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