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でも母が鎮まったのはほんの一時のこと。
程なくして、今度は『その彼との結婚はまだなの?』と聞かれるようになって。
天莉は、(お母さんに言われなくても、自分が一番それを望んでいるのに!)と思いながら、つい、腹立たしさ紛れ。「相手は同期で同い年だから! まだ彼の方がそんな気持ちにならないんだもん! 仕方ないじゃない」とまで話してしまっていた。
それでだろう。
母親の、『やーん。やっとなのねー!』という期待に満ちた声に気圧されて、「一緒に行くのは前に話した人とは別の男性なの」と言えなかった天莉だ。
同期でも何でもない、六つも歳の離れた上司を紹介したらどうなることか。
尽に、申し訳なさ一杯で事情を話し、ごめんなさいをした天莉だったのだけれど――。
尽はニヤリと笑うと「裏を返せば天莉のお母様はキミの結婚を心待ちにしてくださってると言うことだね。俺としては願ったり叶ったりの状況だよ」と一向に気にしなかった。
「でもっ」
天莉としては後ろめたさいっぱいなのだ。
そう伝えたいだけなのに、「なぁに、天莉。俺がキミの結婚相手として、横野博視に劣るとでも言いたいの?」と冷ややかに見下ろされては、何も言い返せないではないか。
「そ、そんなこと思うわけないじゃないですかっ!」
「じゃあ、何の問題もないね。俺に任せておけばいい」
元より尽ほどのハイスペックな男性が横野博視に敵わないなんてことありはしないし、天莉自身も高嶺尽の方が、元カレなんかより男としても、人間としても断然出来た人だと認識はしている。
でも――。
だからこそ余計に自分なんかでいいのかな?と引け目を感じてしまうのだ。
加えて実家への訪問の日取りが決まった日、尽から出された〝課題〟がなかなかクリア出来ないままな天莉は、それも悩みの種だったりする。
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